✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「今日はキリヤ様から実技試験対策として魔法の技術を授かりたいと思います!」
「おいミズキ、俺は許可していないぞ」
試験期間二日目の放課後、キリヤたちはキリヤの創り出した対戦場にいた。無論、魔法の対戦をするためである。
だがそれを決めたのはミズキだ。キリヤは許可していない。
「キリヤ様」
「なんだ」
「わたくし、使命を授かっているのです」
「なんの?」
「同好会の者たちから、キリヤ様の戦闘中の写真を撮影することです」
「…………」
同好会。ミズキが指すのは特待生推し同好会、最恐魔王同好会、幼女天使同好会のことだろう。
(あれは最悪だった……)
キリヤが前に行った同好会イベントでは、ひどい目にあったのを覚えている。
「尚更却下だ」
「いえ、キリヤ様。却下した方が面倒な事態になるかと」
「何故?」
「今回、わたくしが写真を撮れなかった場合、同好会の皆様は二度目の同好会イベントを開くとのお達しです」
「…………」
キリヤは心底嫌そうに顔を歪ませる。同好会イベントはキリヤ史上トップスリーに入る嫌な出来事だ。
「なんとかしろ」
「あるじ様の御命令はとても嬉しく思いますが、お受けできません」
「何故?」
「わたくしもキリヤ様の戦っている写真が欲しいからです!」
「…………」
堂々と言うミズキ。キリヤはもっと嫌になった。だがミズキを敵に回すとなると、もっと面倒なことになるとキリヤは知っている。
ミズキならば先に教師や生徒会を味方にし、俺に選択権を与えないようにするだろう。主従関係は結んでいるが、基本的に命令や行動の制限はしていない。
(なんで俺、ミズキと主従関係を結んだんだっけ……)
契約を結んだことを少し後悔するキリヤであった。
「まぁ良いじゃないか、キリヤ」
「レイ」
だがキリヤは知っている。レイは強くなって自分を越したいだけだと。
「レイは十分強いだろ」
「俺より強いくせによく言うよ、キリヤ」
「ね。俺も早くキリヤより強くなって、リリアとカレカノになりたいなぁ」
「い、イツキ、くん……!」
レイたちの話にのってリリアに告るイツキ。キリヤがイツキの首根っこを掴み、低く脅す。
チユとフィーネは「春だねぇ」「だね」と言っている。試験期間中なのに、皆、自由である。
「では、キリヤ様。教えてくださいますか?」
「はぁ……。わかったよ」
「やったぁー!」
てな感じで、キリヤの魔法講座が始まったのでした。
「まずは、みんなの魔力値を教えて」
「わたくしは8600です」
「俺は9200」
「自分は7400です」
「俺は7800かなぁ」
「チユは8200だよ!」
「私は8700」
ミズキ、レイ、ライガ、イツキ、チユ、フィーネの順に魔力値を伝えた。
一般的に、魔力値が7500を超えれば高い方と言われている。
「キリヤ様とリリア様はいくつですか?」
「魔力値……16400、だった、気がする」
「リリア、違う。リリアの魔力値は28600。それは俺の魔力値」
「!?」
二人とも10000超えの魔力値だ。しかも、リリアに至っては30000に近い数値だ。
「……どうしたらそんな破格の数値になるのさ」
「? 気づいたら、こう、なってた」
「魔力圧縮を繰り返せば、濃度も量も増えるよ。簡単だろ」
「簡単、ねぇ……」
魔力圧縮。自分の魔力を凝縮することである。
魔力圧縮をすると、魔力の濃度が濃くなり、少ない魔力で魔法を発動することができる。また、身体大きくなるにつれて保有できる魔力量が増える。
魔力値の数値は、魔力の濃度が10だとした時の量である。例えば、魔力の濃度が5の人は、魔力の濃度が10の人と同じ魔力量を持っていたとしても、数値は魔力の濃度が10の人の二分の一、となる。
「これは……特待生に選ばれた理由がよくわかったよ」
「うんうん」
「そ。じゃ、始めるよ。まずは、火焔魔法を出して」
キリヤがそう言うと、皆が一斉に火焔魔法を発動させた。キリヤもリリアも発動させる。だが、火焔魔法の火力や規模は全然違った。
まず、キリヤとリリアの火焔魔法は青い。皆が赤なのに対して青いのだ。
そして規模が大きい。この対戦場と同じくらい大きい。
「火焔魔法だけでもこんなに差がある。俺たちと同じくらいの火焔魔法を出さないと、戦ってもすぐに負けるよ。ほら、みんな頑張って」
するとキリヤは火焔魔法を解除して氷結魔法を展開、発動させる。そしてリリア以外の全員に攻撃を開始した。
「え、ちょっと、キリヤ待て!」
「ほら、頑張れ頑張れ。魔力圧縮と火焔魔法を同時に行えば何とかなるから」
「できるわけねーだろっ!!!」
そして十分後、皆は力尽きたのだった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「みんな、大丈夫?」
「大丈夫じゃないに決まってるじゃん……」
キリヤの無理難題な試練を乗り切ることができたものは一人もいなかった。
リリアはキリヤの方を見る。
キリヤは呆れた目で皆を見つめていた。
リリアは皆が可哀想になったので、得意の治癒魔法で皆を治癒する。
「治癒魔法」
だが治癒されたのは体だけで、心は癒やされていないようであった。
「……リリアはすごいよね」
「なにが?」
「あのキリヤのスパルタ指導に耐えたんでしょ? やっぱすごいわ」
「……キリヤ、スパルタ、違うよ」
「え?」
リリアはキリヤがスパルタではないと言う。それはリリアだからじゃないかと皆が思ったが、そうではなかった。
「優先順位、考える。一番は、キリヤの、攻撃を、相殺、すること。次に、魔力圧縮。キリヤの、攻撃、躱せば、なんとか、なる。あとは、隙を、見て、魔力圧縮。魔力が、底をつく、前に、魔力圧縮、頑張る。そう、すれば、少しの、魔力、で、火焔魔法、発動、できる」
つまり、キリヤの攻撃に耐えることができれば、これは簡単と言うわけだ。だが、それができないから皆は苦戦している。
「リリア〜。そんな簡単に言われても、俺たちは無理だよ」
「はい。普通、二つの魔法の同時展開も困難とされています。それが魔力圧縮となれば更に……。リリア様、見本としてわたくしたちに見せていただけないでしょうか」
「見本……?」
「はい。いいでしょうか?」
リリアはキリヤを見る。
キリヤは「別にいいよ」と言った。
「わかり、ました。やり、ます」
そう言うとリリアは立ち上がり、キリヤの方へと歩く。
そしてーー。
「お願い、します」
「……火焔魔法」
「氷結魔法」
キリヤが火焔魔法を、リリアが氷結魔法を展開、発動させる。
キリヤの展開、発動までの速度は先ほどよりもはるかに速い。リリアもそんなキリヤのスピードについて行く。
「すげぇ……」
「すごすぎる」
「チユたち、どんだけ手加減されてたんだろ」
「わからない。キリヤもそうだけど、リリアの全力もこれだと計り知れないよ」
キリヤは更に雷電魔法を発動させる。それにリリアは氷結魔法を拡大魔法で増幅させ、応戦する。
「……まだいける? リリア」
「大丈夫」
「了解。……創造魔法、促成魔法、透明魔法」
キリヤは創造魔法で植物の種を創造、促成魔法でそれを促成させ、透明魔法で透明にしたものをリリアに攻撃する。
「っ! なら、私は……領域魔法」
リリアは領域魔法でキリヤの攻撃を防ぐ。そしてその間、リリアは魔力圧縮に力を注いだ。
「……すごい」
ポツリと誰かが呟いた。
「俺らにあんなことができるのか?」
「どうしてついていけるんだろ……」
「特待生になったのも頷けるよ」
「キリヤ様、リリア様……」
自分たちにも、そんなことができるのか。それは自分たち次第だ。
(できるかどうかなんて、わからない。だけど追いつきたい。あの二人と同じ景色を見てみたい)
キリヤとリリア以外の全員は、そんな風に感じたのだった。
「今日はキリヤ様から実技試験対策として魔法の技術を授かりたいと思います!」
「おいミズキ、俺は許可していないぞ」
試験期間二日目の放課後、キリヤたちはキリヤの創り出した対戦場にいた。無論、魔法の対戦をするためである。
だがそれを決めたのはミズキだ。キリヤは許可していない。
「キリヤ様」
「なんだ」
「わたくし、使命を授かっているのです」
「なんの?」
「同好会の者たちから、キリヤ様の戦闘中の写真を撮影することです」
「…………」
同好会。ミズキが指すのは特待生推し同好会、最恐魔王同好会、幼女天使同好会のことだろう。
(あれは最悪だった……)
キリヤが前に行った同好会イベントでは、ひどい目にあったのを覚えている。
「尚更却下だ」
「いえ、キリヤ様。却下した方が面倒な事態になるかと」
「何故?」
「今回、わたくしが写真を撮れなかった場合、同好会の皆様は二度目の同好会イベントを開くとのお達しです」
「…………」
キリヤは心底嫌そうに顔を歪ませる。同好会イベントはキリヤ史上トップスリーに入る嫌な出来事だ。
「なんとかしろ」
「あるじ様の御命令はとても嬉しく思いますが、お受けできません」
「何故?」
「わたくしもキリヤ様の戦っている写真が欲しいからです!」
「…………」
堂々と言うミズキ。キリヤはもっと嫌になった。だがミズキを敵に回すとなると、もっと面倒なことになるとキリヤは知っている。
ミズキならば先に教師や生徒会を味方にし、俺に選択権を与えないようにするだろう。主従関係は結んでいるが、基本的に命令や行動の制限はしていない。
(なんで俺、ミズキと主従関係を結んだんだっけ……)
契約を結んだことを少し後悔するキリヤであった。
「まぁ良いじゃないか、キリヤ」
「レイ」
だがキリヤは知っている。レイは強くなって自分を越したいだけだと。
「レイは十分強いだろ」
「俺より強いくせによく言うよ、キリヤ」
「ね。俺も早くキリヤより強くなって、リリアとカレカノになりたいなぁ」
「い、イツキ、くん……!」
レイたちの話にのってリリアに告るイツキ。キリヤがイツキの首根っこを掴み、低く脅す。
チユとフィーネは「春だねぇ」「だね」と言っている。試験期間中なのに、皆、自由である。
「では、キリヤ様。教えてくださいますか?」
「はぁ……。わかったよ」
「やったぁー!」
てな感じで、キリヤの魔法講座が始まったのでした。
「まずは、みんなの魔力値を教えて」
「わたくしは8600です」
「俺は9200」
「自分は7400です」
「俺は7800かなぁ」
「チユは8200だよ!」
「私は8700」
ミズキ、レイ、ライガ、イツキ、チユ、フィーネの順に魔力値を伝えた。
一般的に、魔力値が7500を超えれば高い方と言われている。
「キリヤ様とリリア様はいくつですか?」
「魔力値……16400、だった、気がする」
「リリア、違う。リリアの魔力値は28600。それは俺の魔力値」
「!?」
二人とも10000超えの魔力値だ。しかも、リリアに至っては30000に近い数値だ。
「……どうしたらそんな破格の数値になるのさ」
「? 気づいたら、こう、なってた」
「魔力圧縮を繰り返せば、濃度も量も増えるよ。簡単だろ」
「簡単、ねぇ……」
魔力圧縮。自分の魔力を凝縮することである。
魔力圧縮をすると、魔力の濃度が濃くなり、少ない魔力で魔法を発動することができる。また、身体大きくなるにつれて保有できる魔力量が増える。
魔力値の数値は、魔力の濃度が10だとした時の量である。例えば、魔力の濃度が5の人は、魔力の濃度が10の人と同じ魔力量を持っていたとしても、数値は魔力の濃度が10の人の二分の一、となる。
「これは……特待生に選ばれた理由がよくわかったよ」
「うんうん」
「そ。じゃ、始めるよ。まずは、火焔魔法を出して」
キリヤがそう言うと、皆が一斉に火焔魔法を発動させた。キリヤもリリアも発動させる。だが、火焔魔法の火力や規模は全然違った。
まず、キリヤとリリアの火焔魔法は青い。皆が赤なのに対して青いのだ。
そして規模が大きい。この対戦場と同じくらい大きい。
「火焔魔法だけでもこんなに差がある。俺たちと同じくらいの火焔魔法を出さないと、戦ってもすぐに負けるよ。ほら、みんな頑張って」
するとキリヤは火焔魔法を解除して氷結魔法を展開、発動させる。そしてリリア以外の全員に攻撃を開始した。
「え、ちょっと、キリヤ待て!」
「ほら、頑張れ頑張れ。魔力圧縮と火焔魔法を同時に行えば何とかなるから」
「できるわけねーだろっ!!!」
そして十分後、皆は力尽きたのだった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「みんな、大丈夫?」
「大丈夫じゃないに決まってるじゃん……」
キリヤの無理難題な試練を乗り切ることができたものは一人もいなかった。
リリアはキリヤの方を見る。
キリヤは呆れた目で皆を見つめていた。
リリアは皆が可哀想になったので、得意の治癒魔法で皆を治癒する。
「治癒魔法」
だが治癒されたのは体だけで、心は癒やされていないようであった。
「……リリアはすごいよね」
「なにが?」
「あのキリヤのスパルタ指導に耐えたんでしょ? やっぱすごいわ」
「……キリヤ、スパルタ、違うよ」
「え?」
リリアはキリヤがスパルタではないと言う。それはリリアだからじゃないかと皆が思ったが、そうではなかった。
「優先順位、考える。一番は、キリヤの、攻撃を、相殺、すること。次に、魔力圧縮。キリヤの、攻撃、躱せば、なんとか、なる。あとは、隙を、見て、魔力圧縮。魔力が、底をつく、前に、魔力圧縮、頑張る。そう、すれば、少しの、魔力、で、火焔魔法、発動、できる」
つまり、キリヤの攻撃に耐えることができれば、これは簡単と言うわけだ。だが、それができないから皆は苦戦している。
「リリア〜。そんな簡単に言われても、俺たちは無理だよ」
「はい。普通、二つの魔法の同時展開も困難とされています。それが魔力圧縮となれば更に……。リリア様、見本としてわたくしたちに見せていただけないでしょうか」
「見本……?」
「はい。いいでしょうか?」
リリアはキリヤを見る。
キリヤは「別にいいよ」と言った。
「わかり、ました。やり、ます」
そう言うとリリアは立ち上がり、キリヤの方へと歩く。
そしてーー。
「お願い、します」
「……火焔魔法」
「氷結魔法」
キリヤが火焔魔法を、リリアが氷結魔法を展開、発動させる。
キリヤの展開、発動までの速度は先ほどよりもはるかに速い。リリアもそんなキリヤのスピードについて行く。
「すげぇ……」
「すごすぎる」
「チユたち、どんだけ手加減されてたんだろ」
「わからない。キリヤもそうだけど、リリアの全力もこれだと計り知れないよ」
キリヤは更に雷電魔法を発動させる。それにリリアは氷結魔法を拡大魔法で増幅させ、応戦する。
「……まだいける? リリア」
「大丈夫」
「了解。……創造魔法、促成魔法、透明魔法」
キリヤは創造魔法で植物の種を創造、促成魔法でそれを促成させ、透明魔法で透明にしたものをリリアに攻撃する。
「っ! なら、私は……領域魔法」
リリアは領域魔法でキリヤの攻撃を防ぐ。そしてその間、リリアは魔力圧縮に力を注いだ。
「……すごい」
ポツリと誰かが呟いた。
「俺らにあんなことができるのか?」
「どうしてついていけるんだろ……」
「特待生になったのも頷けるよ」
「キリヤ様、リリア様……」
自分たちにも、そんなことができるのか。それは自分たち次第だ。
(できるかどうかなんて、わからない。だけど追いつきたい。あの二人と同じ景色を見てみたい)
キリヤとリリア以外の全員は、そんな風に感じたのだった。