「椿お嬢さんの城崎呉服店は、この先真っ直ぐ行って3つ目の角を右に曲がったら着くはずやから」

「わかりました。次郎さん、教えてくれてありがとうございます、夕方にはここに戻ってきますから!」

私は元気よく次郎さんにお礼を言うと、今しがた教えてもらった道のりを進む。

「いらっしゃい、魚がお買い得やよー」

「今日採れたての新鮮なナス。そこの奥さん、1本どうだい?」

そんな客寄せの声が飛び交い、どこの店も活気に満ち溢れている。

しばらく通りを歩いていると、1つ目の曲がり角を発見した。

これが1つ目ね。

次郎さんは3つ目の角を右に曲がるって言ってたからあと2つ。

私は、頭の中でそんな確認をしつつ、ひたすら真っ直ぐな道を1人、進んでいた。

その時。

「あら?椿ちゃんやないの!もう、体調はよくなったん?」

え…?

通りに並んだ店の1つからそう声をかけられ、私は思わず立ち止まってしまう。

私に声をかけてきたのは、40代くらいの小太りな奥さん。

どうやらお店は、和菓子屋さんのようで、あんこの甘い匂いが鼻腔をくすぐった。