──Date.5853.1.5

静寂に包まれる森に響き渡る耳をつんざく絶叫。
今にも壊れそうなこんな世界に、人間を糧にし生きる堕武者が現れたために、世界は更なる混沌へと突き進むことになった。
この少女も、運悪く堕武者に遭遇してしまったのだろう。
その甲高い絶叫は葉を打ち鳴らし、木霊となって辺りに響く。
叫び声を聞き付けたのか、ガサガサと草木を踏み締める音が近付いてきた。
やがて月明かりの下に姿を現した、月光が反射する刀を携えた堕武者。
顔には、半分に割れた仮面を着けており、表情は読み取れないが、血走った目で此方を睨み付けているようだ。
そして、そのまま勢い良く突進してきた。
その速さは尋常ではなく、あっという間に間合いを詰められる。
今から数秒もしない内に、彼女の命はこの堕武者によって奪われてしまうだろう。
抵抗しようと声を出そうとするが、何故か出ない。
先程までは絶叫が飛び出たはずなのに。
人間は本当に恐怖した時、声すら出せないのだと悟った。
ただただ、目の前に現れた化け物に恐怖して固まっていただけで。
そんな状況の中、不意に後ろから慣れ親しんだ声が聞こえてきた。
直後、少女と堕武者は、濁流に飲み込まれ、森はいつも通りの静けさを取り戻していった。