サービスエリアのアナウンスで目が覚めた。
トイレを済ませ、少しの菓子を購入してバスに戻る。
その間、ずっと騙されたあの卑しい男のことを考えていた。
何故自分を騙したのか。
利益の為…
あの顧客情報の中に目ぼしいものがあったのか。
しかし何故兎乃を利用したのか、兎乃自身が想像できなかった。
直接社長や部長に関わったり、それこそ清掃員にでも化ければすぐにでも手に入れることができたはずである。
だのに何故、社長の秘書という立場の彼女が使われた。その行為に価値があるとは到底思えなかった。
兎乃はため息を吐いて、考えることを諦めた。
今こんなことに時間を使ってはいられない、謎解きイベントでのメンバーを確認しなければ。
ここには記者や弁護士、探偵など、あの男の名前くらい知っていそうな人物が存在した。あわよくば情報筋になってもらいたい。
スマホを取り出して、チャットアプリを開く。
そこには、今回のイベントでの打ち合わせをするためのルームが開催決定時から作成されていた。
8人のメンバーの自己紹介を探して、最初から読んでいく。
まず、アカウント名”キョウ”。開催運営の國近京司である。
今成長中の、ゲーム会社のCEOを務めている。
自己紹介文はとても穏やかで、ここから感じとれる限り、自身も柔和な性格を持ち合わせているのだろうと考えられる。
次に”Kaho_f”。京司の妻であり、そのゲーム会社で専務を行なっている。
メッセージや文からするに、明るく姉御肌な印象を受けた。
”まくちゃん”こと三宅牧とは、仲良さげにテンポよく会話をしているので以前からの知り合いと見える。
牧はハンドメイド作家をしていた。
Instagramでは四桁のフォロワーを抱える、人気の作家である。優しい色合いや、淡い商品の統一感が人の心を癒すようだ。
そして”ぐー”。なんだか眠気の覚めない名前だが、男性だった。
本名は日浦逢。逢を遇と間違えて、ぐうと読んだのか。
多趣味なようで、他にもオンラインゲームやスノボ、英会話、映画など色々なことが好きなんだとプロフに書いている。
謎解きもそれの一つであるということだ。
名前のこともあって、兎乃は頭は良くなさそうだなと感じた。
“Hikari”、鮎澤曜だ。
若いが、弁護士をしており、調べると事務所のHPがヒットした。
容姿端麗、科挙圧巻。何をどうやっても、満点に近い数値を叩き出す。
かなりのエリートである。
後2人。
”いつき”、東堂一基として大手出版社で記者をしている。本名も同じく。
その担当は社会部記者。事件や事故、社会問題について報道する役目を担っている。
兎乃が正に求めていた役職だ。上手くいけば仲間に引きずり込めるかも…兎乃は拳をきゅっと握った。
最後、探偵一色亮紀。
アカウント名は”一色亮紀”とフルネームで設定されている。
これは単に変更方法がわからないのではなく、今回の為だけに呼ばれたゲストであるから、わかりやすくそうしているのであろう。
アイコンは多肉植物だった。趣味なのだろうか。
この人物は要である。恐らく、あの男の名前を、存在を知っているはずだ。
チャットアプリを閉じ、検索アプリへと移る。
一色亮紀、と検索してHPを探した。
事務所は東京に構えていて、経歴もしっかりしたものだった。信用できる。
顔写真に、見覚えがあると気づいてすぐ、ハンカチを拾ってくれた男性の事を思い出した。
まさか、あの人が一色?
そんな偶然…と小首を傾げる兎乃。
いや、しかしこの瞳は間違いない。
光が差すと胡桃色に煌めくあの眼は、少年のようだった。
もしかしたらそうなのかもしれないと思いながら、スマホを閉じた。
それから、終点のターミナルに着いたので早々に降り、トイレを済ませて待ち合わせ場所に急いだ。
あのオブジェ前で、との約束だった。あそこだ、赤い車が停まっている。
「あ、」
小さく呟き、急ぐ足を止めた。
手鏡を出して、顔や髪を確認する。乱れはなかった。
トイレの大きい鏡でさっき見たというのに、少しのことが気になった。
もし、本当にもし、あの先程の男性が探偵の一色亮紀で今回のイベントに出向いているとしたら。
もう少しだけ、明るい服装で、メイクに時間をかければよかったななどと少々後悔している彼女が居た。
「…ピアスも、可愛いのにすればよかったかな。」
誰にも聞かれたくない。
初夏だというのに凍えそうな声で、ぽつりと漏らした。
トイレを済ませ、少しの菓子を購入してバスに戻る。
その間、ずっと騙されたあの卑しい男のことを考えていた。
何故自分を騙したのか。
利益の為…
あの顧客情報の中に目ぼしいものがあったのか。
しかし何故兎乃を利用したのか、兎乃自身が想像できなかった。
直接社長や部長に関わったり、それこそ清掃員にでも化ければすぐにでも手に入れることができたはずである。
だのに何故、社長の秘書という立場の彼女が使われた。その行為に価値があるとは到底思えなかった。
兎乃はため息を吐いて、考えることを諦めた。
今こんなことに時間を使ってはいられない、謎解きイベントでのメンバーを確認しなければ。
ここには記者や弁護士、探偵など、あの男の名前くらい知っていそうな人物が存在した。あわよくば情報筋になってもらいたい。
スマホを取り出して、チャットアプリを開く。
そこには、今回のイベントでの打ち合わせをするためのルームが開催決定時から作成されていた。
8人のメンバーの自己紹介を探して、最初から読んでいく。
まず、アカウント名”キョウ”。開催運営の國近京司である。
今成長中の、ゲーム会社のCEOを務めている。
自己紹介文はとても穏やかで、ここから感じとれる限り、自身も柔和な性格を持ち合わせているのだろうと考えられる。
次に”Kaho_f”。京司の妻であり、そのゲーム会社で専務を行なっている。
メッセージや文からするに、明るく姉御肌な印象を受けた。
”まくちゃん”こと三宅牧とは、仲良さげにテンポよく会話をしているので以前からの知り合いと見える。
牧はハンドメイド作家をしていた。
Instagramでは四桁のフォロワーを抱える、人気の作家である。優しい色合いや、淡い商品の統一感が人の心を癒すようだ。
そして”ぐー”。なんだか眠気の覚めない名前だが、男性だった。
本名は日浦逢。逢を遇と間違えて、ぐうと読んだのか。
多趣味なようで、他にもオンラインゲームやスノボ、英会話、映画など色々なことが好きなんだとプロフに書いている。
謎解きもそれの一つであるということだ。
名前のこともあって、兎乃は頭は良くなさそうだなと感じた。
“Hikari”、鮎澤曜だ。
若いが、弁護士をしており、調べると事務所のHPがヒットした。
容姿端麗、科挙圧巻。何をどうやっても、満点に近い数値を叩き出す。
かなりのエリートである。
後2人。
”いつき”、東堂一基として大手出版社で記者をしている。本名も同じく。
その担当は社会部記者。事件や事故、社会問題について報道する役目を担っている。
兎乃が正に求めていた役職だ。上手くいけば仲間に引きずり込めるかも…兎乃は拳をきゅっと握った。
最後、探偵一色亮紀。
アカウント名は”一色亮紀”とフルネームで設定されている。
これは単に変更方法がわからないのではなく、今回の為だけに呼ばれたゲストであるから、わかりやすくそうしているのであろう。
アイコンは多肉植物だった。趣味なのだろうか。
この人物は要である。恐らく、あの男の名前を、存在を知っているはずだ。
チャットアプリを閉じ、検索アプリへと移る。
一色亮紀、と検索してHPを探した。
事務所は東京に構えていて、経歴もしっかりしたものだった。信用できる。
顔写真に、見覚えがあると気づいてすぐ、ハンカチを拾ってくれた男性の事を思い出した。
まさか、あの人が一色?
そんな偶然…と小首を傾げる兎乃。
いや、しかしこの瞳は間違いない。
光が差すと胡桃色に煌めくあの眼は、少年のようだった。
もしかしたらそうなのかもしれないと思いながら、スマホを閉じた。
それから、終点のターミナルに着いたので早々に降り、トイレを済ませて待ち合わせ場所に急いだ。
あのオブジェ前で、との約束だった。あそこだ、赤い車が停まっている。
「あ、」
小さく呟き、急ぐ足を止めた。
手鏡を出して、顔や髪を確認する。乱れはなかった。
トイレの大きい鏡でさっき見たというのに、少しのことが気になった。
もし、本当にもし、あの先程の男性が探偵の一色亮紀で今回のイベントに出向いているとしたら。
もう少しだけ、明るい服装で、メイクに時間をかければよかったななどと少々後悔している彼女が居た。
「…ピアスも、可愛いのにすればよかったかな。」
誰にも聞かれたくない。
初夏だというのに凍えそうな声で、ぽつりと漏らした。