兎乃は写真を拾った。
そこには3人写っていた。笑顔の京司、佳芳、それと、
「昼飯できましたよ〜!」
遠くの京司の声に肩を震わせた。1階で皆を呼んでいる。
兎乃はそれをポケットにしまい、何もなかったかのように階段を駆けた。
扉を開ければ、テーブルには人数分の冷やし中華が並べられていた。
麺の上の優しいはずの黄色と桜色と濃い緑が、兎乃の瞳をちかちかと脅した。
あの写真は一色の部屋の前で拾った。

食事中も、國近夫妻の顔を交互に伺いながら麺を喉の奥までねじ込んでいたので正直味がよくわからなかった。
食べ終わったとしても、食器を洗っていても同じことばかりが彼女を縛り、思考はそれに囚われていたままであった。
メイクの崩れを確認するために一旦部屋に戻った時、彼の部屋の前を通り過ぎた。その時に拾ったのだ。
何故あんな所にあったのか。彼が持っていたというのか、しかしどういう理由で彼が京司と佳芳と––それから誰かもわからない人––の写真を持っっている。何を知っているのだ。
透き通ったガラスのコップを手を覆うほどの洗剤の泡でいくら洗っていても、いつまでも汚れが取れない気がした。瞬間、手から滑る。
「あ、」
「大丈夫ですか?」
隣の佳芳が顔色を変えて、兎乃の手を自身の掌で覆った。洗剤が手に付くのも厭わず。
「ごめんなさい!割れてはいないです。」
「推理に夢中でしたか?名探偵。」
冗談にたどたどしくはあ、と答えて下手な笑顔を見せた。
「佳芳さんには、ご兄弟はいらっしゃるんですか。」
何気なく訊いてみた。が返答がない。
顔を見れば、彼女は生気のない表情で手に付いた洗剤を布巾で拭っていた。
返答はなかった。