「—夜のアリバイはないのね。」
「しかしこの夜は腰を痛めてベッドで寝込みました。這いつくばって幼女を襲えと言うんですか?それはない。」
「あり得なくはないっすけど。」
「でもでも、何でもできる幼女を従姉妹ちゃんが妬んだって言うのはないですか?」
「その可能性は十分にありますね。」
「いいですね。アリバイはもちろん重要な鍵ですが、動機も探りたいとこです。」
父親、長老、従姉妹、母親、青年、そして探偵は話し合いを行っていた。
話し合いと言っても、疑っては否定して罪をなすりつけてまとまらない会話だった。
幼女が襲われたその夜、館で皆はそれぞれの時間を過ごしていた。
そこで、長老のように1人で寝室に居たり、父親と青年はチェスで対戦していたり、探偵はそれを見かけたり、母親は幼女はもうすでに寝室に居るものと思い込みゆったり読書をしていたり、従姉妹は寝る前に挨拶をして床についたり。
アリバイがゼロに近いのは長老、もしくは従姉妹であった。早々に自室に引き上げた2人は疑うに躊躇もない。
しかし長老は腰を痛めており、従姉妹は就寝前に家族の皆に挨拶をしている。後者は信頼を得る為の行為とも取れるが、しかしまだ無垢な少女が猛獣になり変われるものだろうか。
母親は食事が終わり、おやすみなさいと元気よく部屋に戻るのを見てあのまま寝るだろうと思ってリビングで時計が0時を知らせるまで読書をしていた。
こちらもアリバイは確かではないが、果たして娘を殺めることができるのだろうか。
父親と青年は特にアリバイが濃いと言える。探偵が目撃しているからだ。
チェスでは父親が最後勝ち、青年は23時前に部屋に戻って行った。
父親は勝った報告がてら、長老の様子を見に行き調子を訊いて寝た。
しかし青年はかなりの幼女趣味であり、それを周りに隠していた。大っぴらにできるものではないからだ。
こちらも信じるに足らぬところもある。
探偵杜若兎乃は眼鏡をくいっとあげる仕草をそれらしいかなと思ってやって見せ、脚を上品に組み替えて少し格好をつけて言った。
「悩ましいですね。」
一色はそんな彼女の様子を横目で見て、思いついたように口を出す。
「アリバイばかり探っていては埒が明かないのでは?他の方面から攻めてみてもいいかもしれません。」
狙いは先程曜が提唱していた予想、長老が怪しいのではというものに引っ張っていくことだった。
長老は東堂。頭が切れるので真っ向から疑りかかる姿勢は見せられない。
一色の自意識の外側で彼自身真剣に謎と、そしてこのゲームに向き合っていた。
「そう、ですね。では動機や事件の裏側も考えていきましょう。」
「動機って言ったら、私はないよね。お母さんだもん!」
牧が前のめりになって息つく間もなく言い切った。その場の全員が言い返さずしかし頷きもせずただ穏やかさを欠いていた。
「でもそれで言ったら同じように親の私もないわ。」
曜が唯一早く反応を返した。
「そんなに単純なものなんでしょうか。ゲームですから色々捻ってるはずですよ。」
「だろうな〜。てか子供に子供殺せる?無理っしょ〜。」
逢はもう既に飽きそうである。というか先刻からソファの座り方がコロコロ変わって落ち着かない。
子犬のように忙しく体制を変え猫みたく気まぐれに鳴いた。
「気になったことがあるのですが、訊いてもいいですか?」
兎乃が静かに口を開いた。
「ゲームをする前、曜さんと一色さんは一番最初にこの部屋に2人で居ましたね。」
感動した。と言っては大袈裟だろうか。
よく話を持ってきてくれた。そう、そうなのだ。これで曜が言ったことが自然と流れ出るだろう。
そうしたら一色は探偵の目を逃れることができる。探偵を騙す探偵というのも気分がいいものだな。
「ええ。」
「居たけど何?」
「何を、話しましたか。」
長老が犯人かもしれないという話を
「互いの秘密、役職を言い合ったり匂わしたりはしてませんか。」
「…はい?」
一色は訊き返した。彼女の推察は彼の範疇内にあらずだった、
彼女は一色が曜と一緒にルールにそぐわないことをしたと、悪巧みをしたと思っているのだ。
「あ〜そういうこと?垂れ流したって?ないわよそんなの。特に何も喋ってない。」
喋ってはいたが…
「そうですね。」
優しい顔で答えながら、思い通りにならないもどかしさが彼に彼自身の唇を噛ませた。
「そうですよね、すみません。」
と言いながらも兎乃は表情を崩していなかった。
「結局家族ですから幼女と血縁や関わりのある者ばかりです。愛していたから、情が生まれているからというような理由では殺めたか否かなんて判別ができません。
もっと深い、暗いところに真相はあるはずです。」
ありもしないような推論でも構いません、思いついたら皆さんも言ってくださいと一色含む6人に提案した。
「長老って幼女ちゃんと仲良くなかったんっしょ。犯人だったりしねぇ?ねえとーどーさん。」
「子供と言っても猛獣に豹変してしまえばみんな同じもんだ。従姉妹も怪しいな。」
逢がえ〜〜とつまらなさそうに笑ってぐずる。
「あの…一ついいですか。」
牧が胸の辺りで手を挙げる。
「牧ちゃん。どうしたの、母親から何か意見がある?」
「うん…不利になっちゃうのかわからなくて言えなかったんだけど、ほんとはね。」
「うん、なんでも言っていいんだよ。」
兎乃が微かに口元を緩めて覗き込むように牧を見据える。
一色の首に、汗がつぅっと伝う。
「ほんとは、幼女ちゃんてお父さんとの子じゃないの。青年くんと私の子なの。」
さながらその形相は聖母マリアだった。
まるでその言葉は人類を絶やす猛毒のようだった。
「しかしこの夜は腰を痛めてベッドで寝込みました。這いつくばって幼女を襲えと言うんですか?それはない。」
「あり得なくはないっすけど。」
「でもでも、何でもできる幼女を従姉妹ちゃんが妬んだって言うのはないですか?」
「その可能性は十分にありますね。」
「いいですね。アリバイはもちろん重要な鍵ですが、動機も探りたいとこです。」
父親、長老、従姉妹、母親、青年、そして探偵は話し合いを行っていた。
話し合いと言っても、疑っては否定して罪をなすりつけてまとまらない会話だった。
幼女が襲われたその夜、館で皆はそれぞれの時間を過ごしていた。
そこで、長老のように1人で寝室に居たり、父親と青年はチェスで対戦していたり、探偵はそれを見かけたり、母親は幼女はもうすでに寝室に居るものと思い込みゆったり読書をしていたり、従姉妹は寝る前に挨拶をして床についたり。
アリバイがゼロに近いのは長老、もしくは従姉妹であった。早々に自室に引き上げた2人は疑うに躊躇もない。
しかし長老は腰を痛めており、従姉妹は就寝前に家族の皆に挨拶をしている。後者は信頼を得る為の行為とも取れるが、しかしまだ無垢な少女が猛獣になり変われるものだろうか。
母親は食事が終わり、おやすみなさいと元気よく部屋に戻るのを見てあのまま寝るだろうと思ってリビングで時計が0時を知らせるまで読書をしていた。
こちらもアリバイは確かではないが、果たして娘を殺めることができるのだろうか。
父親と青年は特にアリバイが濃いと言える。探偵が目撃しているからだ。
チェスでは父親が最後勝ち、青年は23時前に部屋に戻って行った。
父親は勝った報告がてら、長老の様子を見に行き調子を訊いて寝た。
しかし青年はかなりの幼女趣味であり、それを周りに隠していた。大っぴらにできるものではないからだ。
こちらも信じるに足らぬところもある。
探偵杜若兎乃は眼鏡をくいっとあげる仕草をそれらしいかなと思ってやって見せ、脚を上品に組み替えて少し格好をつけて言った。
「悩ましいですね。」
一色はそんな彼女の様子を横目で見て、思いついたように口を出す。
「アリバイばかり探っていては埒が明かないのでは?他の方面から攻めてみてもいいかもしれません。」
狙いは先程曜が提唱していた予想、長老が怪しいのではというものに引っ張っていくことだった。
長老は東堂。頭が切れるので真っ向から疑りかかる姿勢は見せられない。
一色の自意識の外側で彼自身真剣に謎と、そしてこのゲームに向き合っていた。
「そう、ですね。では動機や事件の裏側も考えていきましょう。」
「動機って言ったら、私はないよね。お母さんだもん!」
牧が前のめりになって息つく間もなく言い切った。その場の全員が言い返さずしかし頷きもせずただ穏やかさを欠いていた。
「でもそれで言ったら同じように親の私もないわ。」
曜が唯一早く反応を返した。
「そんなに単純なものなんでしょうか。ゲームですから色々捻ってるはずですよ。」
「だろうな〜。てか子供に子供殺せる?無理っしょ〜。」
逢はもう既に飽きそうである。というか先刻からソファの座り方がコロコロ変わって落ち着かない。
子犬のように忙しく体制を変え猫みたく気まぐれに鳴いた。
「気になったことがあるのですが、訊いてもいいですか?」
兎乃が静かに口を開いた。
「ゲームをする前、曜さんと一色さんは一番最初にこの部屋に2人で居ましたね。」
感動した。と言っては大袈裟だろうか。
よく話を持ってきてくれた。そう、そうなのだ。これで曜が言ったことが自然と流れ出るだろう。
そうしたら一色は探偵の目を逃れることができる。探偵を騙す探偵というのも気分がいいものだな。
「ええ。」
「居たけど何?」
「何を、話しましたか。」
長老が犯人かもしれないという話を
「互いの秘密、役職を言い合ったり匂わしたりはしてませんか。」
「…はい?」
一色は訊き返した。彼女の推察は彼の範疇内にあらずだった、
彼女は一色が曜と一緒にルールにそぐわないことをしたと、悪巧みをしたと思っているのだ。
「あ〜そういうこと?垂れ流したって?ないわよそんなの。特に何も喋ってない。」
喋ってはいたが…
「そうですね。」
優しい顔で答えながら、思い通りにならないもどかしさが彼に彼自身の唇を噛ませた。
「そうですよね、すみません。」
と言いながらも兎乃は表情を崩していなかった。
「結局家族ですから幼女と血縁や関わりのある者ばかりです。愛していたから、情が生まれているからというような理由では殺めたか否かなんて判別ができません。
もっと深い、暗いところに真相はあるはずです。」
ありもしないような推論でも構いません、思いついたら皆さんも言ってくださいと一色含む6人に提案した。
「長老って幼女ちゃんと仲良くなかったんっしょ。犯人だったりしねぇ?ねえとーどーさん。」
「子供と言っても猛獣に豹変してしまえばみんな同じもんだ。従姉妹も怪しいな。」
逢がえ〜〜とつまらなさそうに笑ってぐずる。
「あの…一ついいですか。」
牧が胸の辺りで手を挙げる。
「牧ちゃん。どうしたの、母親から何か意見がある?」
「うん…不利になっちゃうのかわからなくて言えなかったんだけど、ほんとはね。」
「うん、なんでも言っていいんだよ。」
兎乃が微かに口元を緩めて覗き込むように牧を見据える。
一色の首に、汗がつぅっと伝う。
「ほんとは、幼女ちゃんてお父さんとの子じゃないの。青年くんと私の子なの。」
さながらその形相は聖母マリアだった。
まるでその言葉は人類を絶やす猛毒のようだった。