深夜、涼し気な公園の街灯に蛾がたかっていすた。それが妙に不気味だったがそんなことはどうだって良かった。
俺は1人を呼び出す。
来た。その人は息をきらして、走っていた。
「犯人…だれ!」
片手に持ったスマホを掲げて焦ったように。
そいつは俺の目の前で止まった。
早く知りたくてたまらないのだろう。俺の肩を掴んで揺らしてきた。
「早く言えと。」
とでも言うように。
犯人を目の前にしてもなぜか怒りが湧かない。怒りの限度を越してしまったのか。ここまでのことはなかなか無かったから自分にビビる。
決意を固めて深呼吸する。
「お前だろ。犯人。」
“圭”
圭の目線が冷たくなる。
そんな気がした。
「はあ!?こんな時にふざけてんのか!!」
顔は怒りに満ち溢れていた。
“顔は”
ただ目の奥に感情がない。
「なんでだよ!!」
人は後ろめたいことを言われた時その結論が出てしまった理由を聞くらしい。
本に書いてあったことがここで役立つとは。
「まず違和感を持ったのはごみ捨てに行った時だ。」
「ごみ捨て?」
分かっていないようだった。しかし相変わらず睨みつけるような視線を送ってきた。
「四葉が死んで少しだった頃一緒にごみ捨て行ったろ?その時にネックレスが捨てられてあったの覚えてるか?」
「ああ、あれか。」
少し落ち着いたのかあるいはもう諦めたのかそんな口調で答えた。
「あのネックレスは明らかに故意に引きちぎられていた。」
今、圭が何を考えているのかどう思っているのか何1つ感じとることが出来ない。
無理矢理気にしないようにして続ける。
「その時お前、ネックレスを見て“良かった”って呟いたろ?」
黙っている圭を見て息を吸い込む。
「それもそのはずだ。あれはお前が引きちぎったんだからな。」
「だってお前と浅山付き合ってんだろ。」
ここまで言われるなんて思ってもいなかったんだろう。少し圭の表情が驚きに変わった気がする。
「俺が『これ浅山のネックレスじゃない?』って言った時お前は『あれ、昨日はつけてたのにな。』って言っただろ。でもその日、俺と圭はずっと一緒に行動していたし浅山を見かけなかった。だからお前が浅山と会ったのは夜だ。俺はその時、浅山と電話する約束をしていた。だが突然用ができたと直前に断られた。その時浅山はお前に会いに行ってた。夜に突然の呼び出しにも動じずすぐに会いにいく関係なんて恋人以外なんだろうな。月四葉のことについて話すために呼び出したのかとも思ったが考えてみれば四葉についてなら俺の話を聞いた後の方が情報が増えているし議論する材料が多く、より真実に近づけるはずだろ。ならなんで俺の話を断った?簡単な話だ。愛する恋人がすぐ来てくれって言ったからだ。浅山の中では四葉よりお前の方が大事なんだろうな。そりゃそうだ。あいつは四葉のこと嫌いだからな。」
静かな公園に俺の声だけが響いていた。なんとも不愉快でそれを強調するように街灯がチカチカと点滅した。しばらくすると圭が口を開いた。
「なんで美来が月野を嫌いだと思った?」
俺を睨みながら圭が言う。
妙に寒気がした。
「あいつさ、自分から四葉の話しねぇんだよ。最初は悲しくなるから思い出したくないだけかと思ったがそんなことは無さそうだった。それは四葉が浅山の好きな人を奪ったからだ。もちろん中学時代の。浅山に中学時代の四葉を聞いたら笹野蒼ってやつが出てきた。浅山は笹野蒼とは関わりないと言っていたが嘘だろうな。関わってないやつの連絡先を持ってるなんて不自然すぎる。浅山は笹野蒼のことが好きだったんだ。つい最近その笹野蒼に呼ばれる人物に会って話をした。そうしたらあいつ、特別な人は呼び捨てするらしいぜ。で、あいつ、四葉も浅山も呼び捨てだった。だが浅山は必死にちゃん付けに治そうとしていた。なぜなら笹野蒼にとって浅山は“好きだった人”だからだ。つまり浅山と笹野蒼は両想いだった。笹野蒼自身は口にしてないが好きな人も特別な人に入るんだと思う。だから好きな浅山に対して呼び捨てだった。だけど途中で四葉に心変わりしてしまった。だから直しているんだそして四葉は浅山が蒼のことを好きだと知りながら蒼の告白を受け入れた。まぁそれも裏があると思っているがお前には関係ねぇ。」
「すごいな。お前は。」
重いため息をこぼした圭が憎たらしそうに言葉を続けた。
「そうだな。俺は美来と付き合っているよ。未来が月野を嫌っていたことも事実だ。だとしてもなぜ俺がネックレスを壊す必要がある?なんで俺が四葉を死に追いやった?何1つ解決してないぞ?」
嘲笑うかのように少し口角を上げて圭が言った。
「ネックレスを壊す理由なんて簡単じゃないか。四葉を思い出したく無かったからだよ。四葉が死んだ後もしばらく美来はネックレスをつけていた。なぜつけていたのかは美来にしか分からないがな。お前は四葉を間接的に殺したんだから多少罪悪感があった。まさか死ぬとは思っていなかったんだろう。だから美来のネックレスを見て四葉を思い出したくなかった。だから夜、人目につかない場所で美来にネックレスを捨てるよう言った。だが美来は断った。人間とは難しいな。大嫌いな相手も死ぬと少し寂しくなるんだ。だからネックレスだけはもう少し持っていたかった。だから断ったんだ。お前も説得するが美来は応じず結局頭に血が昇ったお前はネックレスを引きちぎった。それで引きちぎったネックレスを無事に美来が捨てているのを見て『良かった』って言ったんだ。その事件の2日後に俺は美来を見かけたが妙に首に赤い跡がついていた。無理やりネックレスを壊された時に跡がついて糸のように赤くなったんだろう。これが俺の考えだ。辻褄は合ってるだろう?」
フッと圭が笑ってバカにした。
「そうだなあ。辻褄は合ってる。だがこれは証拠ないだろ?そんなの憶測に過ぎない。」
確かに俺の考えに証拠は無い。あまりにも俺が知らないことが多い。でも、なんとなく合ってる気がする。
「そうだ。これは俺の憶測だ。証拠なんてない。ただこれまでの不可解な点を繋げるとこうなっただけだ。圭、この憶測は間違ってるか?」
圭は真顔で俺を見つめていた。
「合ってるよ。すごいよお前。」
悲しいような苦しいような目だった。いつも元気な笑顔を見せている圭とは別人だと思ってしまうほどに。
「何度も聞いてた。いかに月野が酷い人間なのか。美来から何度も何度も飽きるぐらいに。でもお前が選んだ人なんだから別れろなんて言えないし、そもそも俺は月野と関わったことが少ないから悪口すら言える立場じゃないと思っていたから決して自分の口から月野の悪口は言わなかった。でも、月野がお前と付き合う前から他の男と付き合っていたっていう事実を聞いて腹の底から激怒したよ。しかも美来の好きな人を奪ってまで付き合った男と。恋人と親友にそこまでするやつは許せなかった。だから怒りを発散したくて悪口を送った。美来にそのことを伝えたら美来も便乗してどんどん悪口の輪が広がっていた。俺が辞めても他の月野を嫌うやつが言っていたから止めるには遅すぎた。そこからはお前が知る通りだ。」
淡々と語る圭の目は何も写していなかった。ゾッとしてしまう。それくらいに怖い。いつも見てきた圭は偽物だと思ってしまって怖い。
でも今のところ圭は1度も謝罪の言葉を述べてない。俺の前だけじゃない。多分四葉が死んでから1度も口にしていない。それが無性にイライラして人を亡くなったのに平然としている圭が許せなくて反省して欲しいと思った。ムカついた。
身体が勝手に動いた。
気がついたら圭が目の前にいて驚いたように額に手を当ててこちらを見ていた。
自分の左手を見たら圭の胸ぐらを掴んでいた。右手は軽く痺れたような感覚がした。
そうか。俺、殴ったのか。親友を。
もはや何も言うことはないと思った。というより自分の頭が整理出来ていなかった。
自分から持ちかけた話でもやはり胸糞が悪い。しばらく圭の顔を見たくない。
最後に睨んでから踵を返す。少し歩いてから後ろから弱々しい声がした。
「ごめん」
確かにそう聞こえた。でももう振り返りたくはない。少し早足にして公園を出る。
家に着いた時、無性に叫びたくて吐きたくなった。脳が追いつかず何も考えられなくなった。
少しづつ頭が機能してきてスマホの連絡アプリを開く。そこには確かに
「見つけたら開けていいよ。」
と書かれた最後の四葉からのメッセージがあった。
“見つけたら”というのは犯人のことだろう。“開けていいよ”とはなんだろう。何か開けるものをもらっただろうか。
記憶をいくら遡ってみてもやはりそんな覚えは無い。というよりもらっていたら絶対に覚えているはずだ。
ふと、部屋を見渡すと通学バックに付いているお守りに目がいった。
そういえばなんのお守りなんだろうか。これが初めて四葉からもらったものだった。
あ、もしかして。これか。このお守りを“開けていいよ”ってことか。
バックから外して手のひらにのせた。
確かに言われてみれば何かが入っている気がする。
丁寧に硬く結ばれた紐をほどいてみると中に紙が小さく折りたたまれていた。これを開くだけであれほど待ち望んだ四葉からのメッセージが見れる。
だがこれを見たら本当にもう四葉の面影を見ることが出来ない気がして怖かった。
手が震えていた。
深く深呼吸して何回も折られている紙を1つづつ元の形に戻していった。
戻していくと手が余裕に隠れてしまう大きさの紙ということと2枚紙があることが分かった。
そして最後、これを開いたらもう文字が見える。
やっぱり勇気がいる。グズグズしてんじゃねぇよって思うけど最後の指を動きが難しかった。
ゆっくりと息を吸って吐く。カサっと音を立てて最後の四葉の文字が見える。
それだけで泣きそうになってしまう。
そこには
拝啓 紫苑くんへ
と書かれていた。小さくて丸くてすこし雑で歪な形の四葉の文字。最後の四葉の文字。1文字ずつ噛み締めながら読もう。
何回も何回も。
俺は1人を呼び出す。
来た。その人は息をきらして、走っていた。
「犯人…だれ!」
片手に持ったスマホを掲げて焦ったように。
そいつは俺の目の前で止まった。
早く知りたくてたまらないのだろう。俺の肩を掴んで揺らしてきた。
「早く言えと。」
とでも言うように。
犯人を目の前にしてもなぜか怒りが湧かない。怒りの限度を越してしまったのか。ここまでのことはなかなか無かったから自分にビビる。
決意を固めて深呼吸する。
「お前だろ。犯人。」
“圭”
圭の目線が冷たくなる。
そんな気がした。
「はあ!?こんな時にふざけてんのか!!」
顔は怒りに満ち溢れていた。
“顔は”
ただ目の奥に感情がない。
「なんでだよ!!」
人は後ろめたいことを言われた時その結論が出てしまった理由を聞くらしい。
本に書いてあったことがここで役立つとは。
「まず違和感を持ったのはごみ捨てに行った時だ。」
「ごみ捨て?」
分かっていないようだった。しかし相変わらず睨みつけるような視線を送ってきた。
「四葉が死んで少しだった頃一緒にごみ捨て行ったろ?その時にネックレスが捨てられてあったの覚えてるか?」
「ああ、あれか。」
少し落ち着いたのかあるいはもう諦めたのかそんな口調で答えた。
「あのネックレスは明らかに故意に引きちぎられていた。」
今、圭が何を考えているのかどう思っているのか何1つ感じとることが出来ない。
無理矢理気にしないようにして続ける。
「その時お前、ネックレスを見て“良かった”って呟いたろ?」
黙っている圭を見て息を吸い込む。
「それもそのはずだ。あれはお前が引きちぎったんだからな。」
「だってお前と浅山付き合ってんだろ。」
ここまで言われるなんて思ってもいなかったんだろう。少し圭の表情が驚きに変わった気がする。
「俺が『これ浅山のネックレスじゃない?』って言った時お前は『あれ、昨日はつけてたのにな。』って言っただろ。でもその日、俺と圭はずっと一緒に行動していたし浅山を見かけなかった。だからお前が浅山と会ったのは夜だ。俺はその時、浅山と電話する約束をしていた。だが突然用ができたと直前に断られた。その時浅山はお前に会いに行ってた。夜に突然の呼び出しにも動じずすぐに会いにいく関係なんて恋人以外なんだろうな。月四葉のことについて話すために呼び出したのかとも思ったが考えてみれば四葉についてなら俺の話を聞いた後の方が情報が増えているし議論する材料が多く、より真実に近づけるはずだろ。ならなんで俺の話を断った?簡単な話だ。愛する恋人がすぐ来てくれって言ったからだ。浅山の中では四葉よりお前の方が大事なんだろうな。そりゃそうだ。あいつは四葉のこと嫌いだからな。」
静かな公園に俺の声だけが響いていた。なんとも不愉快でそれを強調するように街灯がチカチカと点滅した。しばらくすると圭が口を開いた。
「なんで美来が月野を嫌いだと思った?」
俺を睨みながら圭が言う。
妙に寒気がした。
「あいつさ、自分から四葉の話しねぇんだよ。最初は悲しくなるから思い出したくないだけかと思ったがそんなことは無さそうだった。それは四葉が浅山の好きな人を奪ったからだ。もちろん中学時代の。浅山に中学時代の四葉を聞いたら笹野蒼ってやつが出てきた。浅山は笹野蒼とは関わりないと言っていたが嘘だろうな。関わってないやつの連絡先を持ってるなんて不自然すぎる。浅山は笹野蒼のことが好きだったんだ。つい最近その笹野蒼に呼ばれる人物に会って話をした。そうしたらあいつ、特別な人は呼び捨てするらしいぜ。で、あいつ、四葉も浅山も呼び捨てだった。だが浅山は必死にちゃん付けに治そうとしていた。なぜなら笹野蒼にとって浅山は“好きだった人”だからだ。つまり浅山と笹野蒼は両想いだった。笹野蒼自身は口にしてないが好きな人も特別な人に入るんだと思う。だから好きな浅山に対して呼び捨てだった。だけど途中で四葉に心変わりしてしまった。だから直しているんだそして四葉は浅山が蒼のことを好きだと知りながら蒼の告白を受け入れた。まぁそれも裏があると思っているがお前には関係ねぇ。」
「すごいな。お前は。」
重いため息をこぼした圭が憎たらしそうに言葉を続けた。
「そうだな。俺は美来と付き合っているよ。未来が月野を嫌っていたことも事実だ。だとしてもなぜ俺がネックレスを壊す必要がある?なんで俺が四葉を死に追いやった?何1つ解決してないぞ?」
嘲笑うかのように少し口角を上げて圭が言った。
「ネックレスを壊す理由なんて簡単じゃないか。四葉を思い出したく無かったからだよ。四葉が死んだ後もしばらく美来はネックレスをつけていた。なぜつけていたのかは美来にしか分からないがな。お前は四葉を間接的に殺したんだから多少罪悪感があった。まさか死ぬとは思っていなかったんだろう。だから美来のネックレスを見て四葉を思い出したくなかった。だから夜、人目につかない場所で美来にネックレスを捨てるよう言った。だが美来は断った。人間とは難しいな。大嫌いな相手も死ぬと少し寂しくなるんだ。だからネックレスだけはもう少し持っていたかった。だから断ったんだ。お前も説得するが美来は応じず結局頭に血が昇ったお前はネックレスを引きちぎった。それで引きちぎったネックレスを無事に美来が捨てているのを見て『良かった』って言ったんだ。その事件の2日後に俺は美来を見かけたが妙に首に赤い跡がついていた。無理やりネックレスを壊された時に跡がついて糸のように赤くなったんだろう。これが俺の考えだ。辻褄は合ってるだろう?」
フッと圭が笑ってバカにした。
「そうだなあ。辻褄は合ってる。だがこれは証拠ないだろ?そんなの憶測に過ぎない。」
確かに俺の考えに証拠は無い。あまりにも俺が知らないことが多い。でも、なんとなく合ってる気がする。
「そうだ。これは俺の憶測だ。証拠なんてない。ただこれまでの不可解な点を繋げるとこうなっただけだ。圭、この憶測は間違ってるか?」
圭は真顔で俺を見つめていた。
「合ってるよ。すごいよお前。」
悲しいような苦しいような目だった。いつも元気な笑顔を見せている圭とは別人だと思ってしまうほどに。
「何度も聞いてた。いかに月野が酷い人間なのか。美来から何度も何度も飽きるぐらいに。でもお前が選んだ人なんだから別れろなんて言えないし、そもそも俺は月野と関わったことが少ないから悪口すら言える立場じゃないと思っていたから決して自分の口から月野の悪口は言わなかった。でも、月野がお前と付き合う前から他の男と付き合っていたっていう事実を聞いて腹の底から激怒したよ。しかも美来の好きな人を奪ってまで付き合った男と。恋人と親友にそこまでするやつは許せなかった。だから怒りを発散したくて悪口を送った。美来にそのことを伝えたら美来も便乗してどんどん悪口の輪が広がっていた。俺が辞めても他の月野を嫌うやつが言っていたから止めるには遅すぎた。そこからはお前が知る通りだ。」
淡々と語る圭の目は何も写していなかった。ゾッとしてしまう。それくらいに怖い。いつも見てきた圭は偽物だと思ってしまって怖い。
でも今のところ圭は1度も謝罪の言葉を述べてない。俺の前だけじゃない。多分四葉が死んでから1度も口にしていない。それが無性にイライラして人を亡くなったのに平然としている圭が許せなくて反省して欲しいと思った。ムカついた。
身体が勝手に動いた。
気がついたら圭が目の前にいて驚いたように額に手を当ててこちらを見ていた。
自分の左手を見たら圭の胸ぐらを掴んでいた。右手は軽く痺れたような感覚がした。
そうか。俺、殴ったのか。親友を。
もはや何も言うことはないと思った。というより自分の頭が整理出来ていなかった。
自分から持ちかけた話でもやはり胸糞が悪い。しばらく圭の顔を見たくない。
最後に睨んでから踵を返す。少し歩いてから後ろから弱々しい声がした。
「ごめん」
確かにそう聞こえた。でももう振り返りたくはない。少し早足にして公園を出る。
家に着いた時、無性に叫びたくて吐きたくなった。脳が追いつかず何も考えられなくなった。
少しづつ頭が機能してきてスマホの連絡アプリを開く。そこには確かに
「見つけたら開けていいよ。」
と書かれた最後の四葉からのメッセージがあった。
“見つけたら”というのは犯人のことだろう。“開けていいよ”とはなんだろう。何か開けるものをもらっただろうか。
記憶をいくら遡ってみてもやはりそんな覚えは無い。というよりもらっていたら絶対に覚えているはずだ。
ふと、部屋を見渡すと通学バックに付いているお守りに目がいった。
そういえばなんのお守りなんだろうか。これが初めて四葉からもらったものだった。
あ、もしかして。これか。このお守りを“開けていいよ”ってことか。
バックから外して手のひらにのせた。
確かに言われてみれば何かが入っている気がする。
丁寧に硬く結ばれた紐をほどいてみると中に紙が小さく折りたたまれていた。これを開くだけであれほど待ち望んだ四葉からのメッセージが見れる。
だがこれを見たら本当にもう四葉の面影を見ることが出来ない気がして怖かった。
手が震えていた。
深く深呼吸して何回も折られている紙を1つづつ元の形に戻していった。
戻していくと手が余裕に隠れてしまう大きさの紙ということと2枚紙があることが分かった。
そして最後、これを開いたらもう文字が見える。
やっぱり勇気がいる。グズグズしてんじゃねぇよって思うけど最後の指を動きが難しかった。
ゆっくりと息を吸って吐く。カサっと音を立てて最後の四葉の文字が見える。
それだけで泣きそうになってしまう。
そこには
拝啓 紫苑くんへ
と書かれていた。小さくて丸くてすこし雑で歪な形の四葉の文字。最後の四葉の文字。1文字ずつ噛み締めながら読もう。
何回も何回も。