「今週は…三河と…椎名と柳と川瀬が掃除当番なー」
毎週のように先生が掃除当番を発表する。
まだ月の死は受け入れられない。けれどいつまでも落ち込んでいるわけには行かない。
今週は俺か。圭と一緒なのはまだいいが、柳と川瀬って誰だっけ。
交友関係があまりない俺からしたら知らない人が多い。

「んじゃ、ごみ捨てはお願いね。」
そう1言言ってから、柳と川瀬と呼ばれる女子2人は笑いながら教室を出ていった。
俺だって今日蒼ってやつに話聞きに行きたかったのに。あいつら先に帰りやがって。
深くため息をついて圭を見た。
圭も同じようにため息をついてゴミ箱に向かった。俺も半歩遅れて圭を追いかける。
「行くかあ。」
心底面倒くさそうに圭が言う。よろよろとゴミ箱を持ち上げて教室を出る。
「なぁー。プレゼントってさ難しいよな。」
急に圭が言った。どうせ中身のない話だから適当に返す。
「そうだな。相手によって何にするか違うしさ。だるいよな。」
「そうなんだよ。安くても高くてもダメなんだろ?知らねぇよ。貰えるだけありがたく思えよ。」

だらだらと歩きながらどうでもいい話をした。
重いゴミ箱をゴミ捨て場にガサツに置く。二人で協力しより大きなゴミ箱にゴミだけを入れていく。その途中、何か光るものを見つけた。
疑問に思い、1歩近寄る。
それはネックレスだった。
どこかで見た覚えがある。どこだったか思い出せない。けれどネックレスのデザインを見ると分かってしまった。
エメラルドのように綺麗なハートの形。
これは四葉と浅山の物だ。
四葉か浅山どちらかは分からないが多分浅山だろう。
1週間後に四葉の遺品が出てくることは無いだろうしこんな無造作に捨てられることも無いだろう。
助けを求めるように圭を見る。
「圭、これどっちのだと思う?」
圭がチラッと俺を顔を見て無造作に捨てられているネックレスに目を落とす。
「これ、美来のだな。」
その後に何かボソッと言った気がする。が、気にせず返す。
「だよな。壊れてるのか?」
見ると美しいハートには、一筋のヒビが入り込んでいた。それに加えて、ネックレスのチェーンも容赦なくちぎれていた。
チェーンがちぎれて落としたのだろうか。それにしてはちぎれ方がおかしい気がするが。
「昨日はつけていたのにどうしたんだろうな。」
心配そうな声色で圭がネックレスを見ていた。
何も出来ず俺たちはネックレスに背を向けて歩いた。


帰り道、圭とわかれた直後に通知が鳴った。そこに書かれた送り主は絶対に連絡が来ないであろう人だった。

【四葉 から1件のメッセージ】

画面に表示された名前は何回みても四葉だった。
誰かのイタズラか?タチが悪いにも程がある。
それでも無視することは出来ずに連絡アプリを開いてしまう。

【見つけたら開けていいよ。】

そこに書かれたのは1文。
イタズラでこんなことをするだろうか?しかし四葉から来るはずもない。
するともう1回通知が鳴った。また四葉からだ。

【ビックリした?時間を設定してその通りに指定した文を送ってくれる有能なアプリを使っているのだよ!!死人からのメッセージほどの恐怖はないよね】

俺の勘が言っている。
これを送ったのは四葉だ。
この口調は絶対に四葉の口調だ。
陽気で自信に満ち溢れているこの口調。大好きだけど敵わないなと思ってたっけ。
立ち尽くし、涙がこぼれ落ちるのを抑えきれなかった。
「好きだなあ。」
無意識に口について出た言葉。
つくづく思う。大好きだ。

そうか。なるほど。
落ち着いてもう1度考えてみる。
時間差で送ることが出来るアプリ。
じゃあこの時期に送ったのには意味があるはずだ。
“見つけたら”ってなんだ。犯人か?
もし“見つけたら”が犯人だとしたら“開けていいよ”はなんだ。分からない。
とりあえず犯人を見つけよう。
早速蒼に連絡する手段を考える。
【浅山、蒼の連絡先くれないか?】
蒼という人物がどこにいるか分からない以上、最初はアプリ上で会話するしかないか。反応を見れないのは残念だか挨拶と偵察程度ならいいだろう。
【分かった。蒼くんにも許可もらったよ。】
すぐに浅山からのメッセージと共に蒼の連絡先と思えるQRコードが送られてきた。
アプリでQRコードを読み込むと綺麗な海のアイコンが出てきた。アイコンの下には[あおい]と書かれていた。
こいつが犯人候補だと考えるとイライラしてくる。
【突然すみません。四葉の恋人の三河紫苑です。】
すぐに既読が付き返事が返ってきた。
【四葉の今彼ですか。どうしました?】
“今彼”今は俺は四葉の彼氏といえるのだろうか。少し疑問に思ったがすぐこの邪念をはらう。
【先日、四葉が自殺しました。警察では勉強のストレスということになりましたが俺は別に原因があると思っています。その原因究明のため、手がかりが欲しいんです。】
正直に言う。ここを偽っても意味が無いし。
【あげるとしたら四葉のSNSのことですかね。】
思いもよらなかった。SNSの話なんて四葉から聞いたことがなかった。
これは直接聞いた方がいいな。
そう判断して瞬時に蒼に返信する。
【そうですか。出来れば直接話を聞きたいんですけどいいですか?】
【大丈夫ですよ。今週の土曜の1時に港駅前のカフェでどうですか?】
【分かりました。待ってます。】
それで会話は終わった。
土曜日まであと2日。