その後は、茜や長瀬主導で様々な屋台を回った。普段クラスのリーダー格をやっている五組の女子たちを差し置いて茜が中心になっているのはさすがだと思った。
 茜は小さくて細いが沢山食べるので、りんご飴やたこ焼き、ポテトなどどんどん買っていく。そんな茜を見て長瀬はぶはっと噴き出した。


「茜ちゃん、意外と食べるんだな」
「何それ、大食いって言いたいの~?」
「んーん。いっぱい食べる子好きよ? 俺」
「やだーっ長瀬くんったら」


 傍から見ればいちゃいちゃしているカップルだ。周囲の長瀬を好きな女子たちの目が心なしか怖い。
 祭りではしゃぐタイプではない由麻は一歩引いたところから彼女たちを観察している。どうやら宇佐も同じタイプのようで、長瀬たちの会話には参加せずずっと由麻の隣にいる。


「江藤さんは買いたいものないの」


 ふと宇佐にそう問いかけられ、少し考えた。しかし思いつくものはない。


「うーん……。立ったまま食べるのが苦手なんだよね。ゴミも増えるし」
「座るなら食べられる?」
「うん、だから花火が始まる前とかでいいかなって」
「じゃあ、どっかで買って、今食べよう」
「え?」


 宇佐が少し離れた位置にいる長瀬たちに向かって言う。


「俺と江藤さん、別の屋台行ってくるから、後で合流しよ」


 驚いたのは由麻だけでなく長瀬も同じのようで、彼はその言葉にぽかんとしていた。
 宇佐がそれだけ言って反対方向に歩き出すので、由麻も慌ててその後に続く。


「宇佐さん、長瀬さんたちはいいの? これも未来を変えるための作戦のうち?」
「いや。俺が予測してる事象はまだ起きないから、今は江藤さんも気を抜いてていいよ」
「でも……」
「俺が頼んだことに集中しすぎて江藤さんが楽しめてないんじゃ申し訳ないから」


 宇佐はしばらく歩いた後、トルネードポテトの屋台の前で止まった。
 それは、さっき由麻が買いたかったがやめたものだ。歩きながらでは食べにくいし、手も汚れると思った。


「江藤さん、これ好きでしょ」
「嘘、そこまで分かるの?」
「一度見た人間のことなら大体は予測できるよ」


 宇佐が財布を出し、「二本で」と頼む。由麻も慌てて財布を出そうとするが、「協力してもらってるからこのお祭りの間は奢らせて」と言われた。


「そんなの、お礼なんか成果報酬でいいのに。もし未来が変わったらで」
「ふ。成果報酬か。面白い言い方するね、江藤さん」


 宇佐が笑う。柔らかい笑い方にきゅんきゅんした。
 その笑顔が見られるだけで十分なのにな、と由麻は思う。

 二人で人の波からは少し外れた場所まで行き、座れそうな階段に腰をかける。
 お互い無言でポテトを食べた。隣にいる宇佐との距離、決して縮めてはいけない距離にドキドキした。
 ポテトを全て食べ終えた後、何か喋らなければと脳内で話題を探す。

 そして、聞いたところで傷つくことは目に見えているのに、咄嗟に彼女の話題を出してしまった。


「宇佐さん、お祭り、彼女とは行くの?」


 宇佐が答えるまで、少し間があった。
 宇佐は由麻の方を見ずに言った。


「あの人は、別の人と行くんじゃないかな」