宵宮藍(よいみやらん)は海沿いの街の小さな病院で生まれた。生まれて少し8ヶ月で父の転勤先の、海沿いの町に引っ越した。その町は海と山に囲まれた田舎、いや限界集落で、藍は自然に囲まれてのびのびと育った。食べて遊んで寝る、ありきたりな幼女だった。
 好きな食べ物はさつまいも、公園で遊んで転んで泣いて帰ってくるのがテンプレだった。父は藍の起きている時間帯に仕事なことが多く、藍はものすごく母が好きになった。反面、会わない父はその分を満たすがために藍に近づくが、懐くまでかなり時間がかかった。懐いたら最後、藍は優しい父が大好きになった。母には劣るが。

 4歳になる年、正確には3歳3ヶ月の藍に転機が訪れる。藍は地震に遭った。いや、藍だけでない。母も父も近所の人も、もっと広い色々な人が遭ったのだ。当時の藍は地震なんて知るはずもなく、ただ「揺れている」とだけ感じていた。母は昼食の片付けか掃除をしてて、藍は寝っ転がりながらテレビを見ていた、と思う。その辺の記憶は実に曖昧で、時間の長さを感じる。
 揺れに気づいた母は藍を抱き上げ、テレビを支えた。母のお腹には、後に生まれてくる妹の梨夏(りか)がいた。にもかかわらず、母は藍も守るがために動いた。揺れが落ち着くと母は抱きかかえたまま縁側から外に出た。当時は知らないが、もうこの頃には津波が街を襲っていた。 また、ある原発事故によって有害物質が撒かれ、人々は知らぬうちに被曝していた。この震災は後々歴史に名を残すことになる。
 しばらくして父が帰ってきて、めちゃくちゃな家の中から毛布だけ持ってきた。その夜は車の中で寝た。
 朝になって、山の上にある公民館に避難するように喚起された。街中にバスが回って、避難を手伝っていた。藍たちもそのバスに乗って公民館に向かった。その公民館も被害は受けていたが、津波の影響はまずなかった。トイレもない公民館で、穴を掘って粗相していた。食事は基本的に塩むすびだけ。外で遊ぶのが大好きなのに出してもらえない。そんな生活が5日続いた。
 不幸中の幸いか、他県に住む祖父母らは無事だった。藍たちは車でその街を後にした。後にこの町周辺はは立ち入り禁止区域となってしまった。
 母方の実家に着いたものの、ガスも水も止まっていた。しかし、それは父方の実家も同じ。母方の方に来たにも理由があった。母方の家はもう古く、未だ井戸と即席竈門があった。故にどうにか頑張って体を洗いたかったのだ。地震に遭ってから一度も風呂に入れていなかったので、なんとかしたかったのだ。結論、湯を浴びることができ、体のかゆみもいくらかましになった。ただ、母方の家はとても広いとは言えず、早々に父方の実家に移った。
 父方の家は比較的新しく広い。到着したときには従妹家族もいた。家が見つかるまで、居候することになった。
 家が見つかったのは梨夏が生まれる、6月頃だ。母方実家の近くの貸家を借りた。そこで無事妹梨夏が生まれた。