待ち合わせ場所にしていた、ショッピングモールの最寄り駅。待ち合わせ時間の5分前に着いて周りを見渡す。TwitterのDMによるともうmikiは着いているらしいけれど、それらしい人はおらず、同い年くらいの男性がひとりいるだけだ。
『もう着いてるの?見当たらない…』
いくら周りを見渡しても誰かを待って居そうなのはその人だけだったからmikiに連絡を入れる。
『わかった、自撮り送るわ』
そうやって送られてきた自撮りは横にいる男性らしき人。緊張しつつ思い切って声をかける

「あのー、すいません」
振り返った顔を見て驚く。それはインスタで毎日のように見ていたヒスイだった。
「え、ヒスイさん?!」
「もしかして꒰ঌ𝓗𝓲𝓷𝓪໒꒱(ヒナ)さん?どうしてここに…」
ヒスイの口から出てきたインスタのアカウント名に気づいて貰えた喜びとメイクの事しか話して来なかったヒスイにヲタクであると伝える事への困惑が混ざりあう。
「えっと、、、友達と待ち合わせしてて」
嘘とも本当ともつかない事を伝えると、ヒスイはひとりで悩みだす。ヒスイが口を開いた、と思うと
「もしかして、みつを。さんですか?」
ヒスイの口から飛び出したのは適当につけた私のTwitterのヲタ垢の名前。
「え、、?なんでそれを…
まさかmiki(ミキ)??」
今日会う予定だったネッ友の名前をあげる。
「はい、てことは…」
「「同一人物?!」」
ハモった声に疑問を抱く。なんとなく、聞き覚えのある声だったから。
「もういっそ、LINE交換しませんか?」
「ぜひ!!」
ヒスイ、mikiからの提案に急いでQRコードを出す。やっとLINEを繋げられたと思いながら見ているとヒスイ、mikiが読み込んだ瞬間固まる。
「え、日向(ひなた)?なんで??」
まさか出てくると思わなかった本名に固まる。LINEの名前も本名じゃなく設定してるはずだ
「え、なんでそれを…」
「これ、私のアカウント」
そうして見せてきたアカウントはとても見覚えのある瑞葵(みずき)のもの。
「え??みずき?なんで…」
思わず声に出てしまった驚きに苦笑いするみずき。
「私もびっくりだよ」
その声にドキリとする。学校の人には誰1人バレてないと思っていたヲタク、腐女子である事、地雷系の服であることがバレてしまった。
「えっと、、、」
「あ、責めてるわけじゃないんだけどね。ただ私の作品リア友に見られてたんだなって」
突拍子もなく言われるそんな言葉。
「え、作品?」
思ってもみなかった返しに思わず聞き返す。
「うん。碧凪(あおな)の作品、読んでるでしょ?」
私の大好きな文字書きの名前が出てきてビビる。
「え、私の作品って?まさか…碧凪先生?」
「うん、そうだよ」
笑いながら返された言葉に固まる。まさかヒスイさんとmikiと碧凪先生が同一人物で、その上に友達のみずきだったとは思ってもいなかった。
「え、嘘でしょ。あの神作創ってたのみずきなの?!ずっと応援してたんだけど!!」
色々まとまってないけれど、咄嗟に出てきた言葉に自分でも驚く。今、みずきは私の秘密を全て知ってしまっている。だって今までmikiともヒスイさんとも沢山話してきたし碧凪先生に送ったコメントは数え切れない。諦めて開き直った私は欲に率直になることにした。
「ねぇ、ここで碧凪先生について語ってもいい?」
「やめて、さすがに恥ずい」
即答したみずきは本気で気まずそうだ。
「そういえばひなたのアカウントはどれなの?小説サイトのやつ」
急に反撃されビビりつついつものようにサイトを開く。
「これだよ」
ホーム画面を見せるとまたもやみずきが驚きつつ口を開く。
「え、美津さん?!いつもありがとうございます…」
「え、知ってるの?待って、推しに認知されてた…?」
頭と口が直結してしまったように思わず声に出してしまう。
「そりゃ、処女作からずっとコメントくれて、応援してくれてるじゃん。私美津さんのコメント励みに創作活動してるくらいだよ?」
「待っって、全部読まれた?あのキモヲタでしかない文章を?嘘でしょ?」
箍が外れた脳では思ったことがそのまま口に出る。引かれてしまうと頭の中で思いつつもスイッチの入った脳を、口をコントロール出来ない。
「え、まじで好きです。あのほかの誰とも違う関係性や語彙、雰囲気は碧凪先生だけのものだし、スゴすぎるし…」
「ちょっっと待って、対面で言うのやめて?本当に照れるから…」
みずきにそう止められふと我に返る。
「ごめんごめん、、ついね」
「でもまさかみずきだったとは…」
思わずといったふうに驚きを零すとみずきも同意する
「私もだよ…mikiの時も私の作品語られて気まずかったけどまさかひなたとは思わんじゃん!」
碧凪先生について語ってる時だけ塩対応だったのはそんな理由があったとは。
しばらくして二人とも落ち着いたのか沈黙が流れる。

「「とりあえず、コラボカフェ行くか」」
まさかハモると思っていなかった言葉がハモり二人同時に吹き出す。
「私、ひなたに聞きたいこと色々あるんだけど、行きながら教えてよ?」
みずきが言う。答えはもちろん決まっている
「もちろん。私も聞きたいこと色々あるし。ちゃんと教えてよ?」
「当たり前じゃん。まず私から言っていい?なんで隠してたの?!教えてくれたらもっと前から沢山話できたのに…それにさ、皆そんなことで引くような人じゃないよ?」
薄々わかっていたけれどどうにもならなかったことを言われ、でも何故かすとんと腑に落ちてしまって。これからはもう隠さずに生きていく、その決意を胸に私は全てが繋がった今お互い聞きたい事を話しながらコラボカフェが入っているショッピングモールに向かって歩き出した。