やがて杖を作り終えると、千臣は肩で息を吐いた。傷が治りきっていないのに、無理をしたから、疲れたのかもしれない。

「千臣さん、薬を塗りましょうか」

千代は千臣に問い、薬を用意した。薬草をすりつぶした汁と新しい綺麗な手拭いを持った千代が千臣の横に座ると、千臣は着物の上をはだけた。旅をするからだろうか、しっかりと鍛え上げられた身体には程よく筋肉がついており瀬楽の体もあまりまじまじと見たことがなかった千代には、ちょっと刺激が強すぎる。

それでも背中と腕の傷に薬草の汁を塗って包帯を変えると、薬草が染みるのか、千臣がふう、とため息を吐いた。脚の傷は腕の傷より深いので、余計に染みるらしい。

「……痛みますか?」

「ああ、そうだな。まだちょっと」

口許は微笑うが、眉が寄せられていて、痛そうだ。何故か千代も心臓がずきずきと痛くなってくる。それを見た千臣が笑った。

「ははは。千代が怪我をしたわけではないだろう」

「そうなんですけど……」

でも、痛いものは痛いのだ。すると千臣が、千代は巫女だからかな、と言った。

「え……」

「巫女は人の気持ちに寄り添うのが仕事だろう。だから、俺が痛いのを見て、気持ちが伝わってしまうのではないか?」

そう……、なのだろうか……。でも今まで、こんなことはなかった。瀬楽が怪我をした時だって、痛そうだな、とは思ったけど、こんな風に心臓がずきずきと痛むことはなかった。

(……そう言えば子供の頃、誰か……、そう、誰かが怪我をして泣いとった時は、こんな風に心臓がずきずきしたんやったわ……。あれは……、誰だったんやろう……)

物思いにふけった千代に千臣は、そうか、と言って微笑んだ。……まるで千代が千臣の痛みを分かる理由を分かっているみたいな、深い笑み。