「解せない、と言う顔をしている」

「は、はい……。水凪様もやはり璃子のことをあまり気に留めておられないようでした。私から見たら、璃子はきれいやし、話も上手やと思いますけど、璃子はそんなに魅力がないですか……」

千代の疑問にふふと笑うと、俺の観点だが、と理由を教えてくれた。

「男女の仲になるなら相手を知ってからだろう。見目が好みの、とんだ女好きだったり、すれっからしだったりしたら、君は好かれたいと思うのかな」

……そういうものなのだろうか。千代にはよく分からない。巫女になるのだからと、そう育てられたからなのだろう。きょとんとして聞いていたからか、千臣も千代の心中を察して、君は神に奉仕するために育ったのだったな、と苦笑した。

「そう説教した俺も、実は子供の時以来、この人、という人には会っていない。子供の頃のことだし、今会ったらどうだろうな、とは思っている」

「その方のことをお好きやったんですね」

だから璃子にも靡かないのか。そう思ったら、どうだろうな、と思案気にされた。

「子供の頃に人を好きになる基準と、大人の今、人を好く基準は、割と違うと思う。子供の頃にやさしくしてもらえば、それが好きにつながったが、大人になった今はやさしくしてもらっただけでは、それは『やさしい人』というだけであって、恋慕ではない。彼女がどういう大人の女性に成長しただろう、という興味はあるが、それが恋だとは思わない」

そういうものか。やはり千代には分からなくて、あいまいな表情で応えてしまった。

「いやいい。分からないということは、今、理解するときではないというだけのことだと思うから、気にしないでくれ」

「そうですね。私がその気持ちを理解するときは、きっと水凪様に嫁ぐ時なのだと思います」

千代がそう言うと、千臣は少し気遣わし気な顔をした。

「……君は、自分の未来を寂しいとは思わないのか? 生まれた時から決められた相手に嫁ぐというのは」

「そうでしょうか。身分の高い貴族の方なども、おうちの都合でお嫁入り先が決まることは聞いたことがあります。お姫様はおうちの為、私は郷の為に嫁ぐんやと思いますし、水凪様はおやさしい方なので、寂しいとは思いません」

水凪が郷に来るまでは絶望ばかりだったが、それも水凪の言葉で全て杞憂だったのだということが分かって安心したくらいだ。水凪の配慮に感謝しなければならない。そう思うと、決められた結婚相手だからと不満に思うことなど、何一つなかった。

「そうか。余計な世話だったな、すまない」

「いえ、気にしないでください。食事の支度をしますね」

千代はそう言って離れを離れた。神さまに己を捧げることを気遣ってもらったことが初めてだったので、なにか不思議な気分だ。

(……神さまに奉仕せぇへん自分を想像できひんのは、寂しいことなんやろか……)

巫女でなければ、あるいは決められた未来以外を歩む生き方も出来たのだろうか。でも。

(私は神さまを郷にお迎えするために生まれたんやもん。それ以外は、もう考えられへん……)

そう。もう自分の道は決まっている。だったらそれ以外を考えることは、もはや無駄なことなのだと、千代には分かっていた。