その後もあまり実家に帰ってこないのは、白々しい家族ごっこに耐えられないのだろうと思っている。そしてたぶん、私に気を遣って、お腹が大きくなってきた彼女の姿を見せないようにしてくれている。
私が妊娠できない体になったことを、大和は知っている。腹痛を訴えて病院に搬送されたとき、大和は私が目を覚ますまでずっと付き添ってくれたからだ。
気にしなくていいのに。大和の幸せなら、私は心から祝福できる。
突然きょうだいになってしまった他人だったはずの大和は、今の私にとって大切な弟であり、わけのわからない家族相関図の中で唯一家族だと思える存在になった。
『で、どこ?』
「内緒」
『意味わかんね。札幌? 地元にいるなら迎え行くけど。実家帰りたくないならうち泊まってもいいし』
「大丈夫だよ。ありがとう」
『……あっそ。べつにいいけど。とりあえず無事ってことだけ伝えとく』
「いいよ。大和からの電話も出ないってことにしといて」
『は? なんで?』
「もう巻き込みたくないから。私と連絡ついたなんて言ったら、私の居場所言うまでしつこく問い詰められるよ」
そもそも、お母さんの心配の矛先は私の安否じゃない。
私が慎ちゃんの元へ行ったとでも思っているのだろう。
『……なあ』
「ん?」
『ずっと思ってたんだけど。……なんであいつと別れねえの?』
我が家で唯一まともなのは大和だ。
『なんなんだよまじで。ありえねえだろ。なんで父さんも母さんもあいつのこと許して、しかも同棲なんかさせてんだよ。みんなおかしいだろ』
あんなことがあっても別れないどころか同棲までしちゃっている私。それを許している両親。どう考えたっておかしい。
中でも一番おかしいのは、私だ。
「ありがとう、大和。結婚式は絶対に行くからね」
心からの感謝を伝えて、電話を切った。