氷点下の中で二時間も外にいれば、また風邪をぶり返してしまうだろうか。
なんて考えながら、どうでもいいか、とも思った。
もう、全部、どうでもいい。
だって、もうすぐ全部終わるのだから。
ずっと震えていたスマホが静かになったから、ポケットから取り出した。すると、ちょうど電話が鳴った。
『どこにいんの?』
電話に出ると、弟の大和は少し怒っていた。
弟といっても同い年で、私の方が誕生日が少し早いだけ。
「どうしたの?」
『こっちの台詞。母さんからのんがいなくなったみたいだって連絡来た』
お父さんの連れ子だった大和は全寮制の高校に通っていたから、ほとんど家にいなかった。だから弟というより、たまに会う親戚みたいな感じだった。
会えば挨拶はするしそれなりに会話もする。仲がいいわけでも悪いわけでもなく、突然きょうだいになってしまった他人同士の距離感でしかなかった。
なのに私が妊娠したとき、大和は唯一味方になってくれた。
──産めばいいじゃん。うちでみんなで育てりゃいいよ。俺だって協力するし。
大和は、私やお父さんやお母さんに何度もそう言ってくれた。お父さんもお母さんも、もちろん私も、ただただ驚くばかりだった。
私がつわりとストレスで体調を崩してしまってからは、毎週末帰ってきてくれた。中絶を促すお父さんとお母さんに怒ってくれた。泣いてばかりいる私を何度も励ましてくれた。流産してしまったあの瞬間まで、ずっと私の味方でいてくれた。
だから大和は、お父さんとお母さんを、そして慶を軽蔑している。高校卒業後は地元で就職する予定だと聞いていたのに、大和は戻ってこなかった。ただでさえ平凡とは程遠かった家が、あの日に壊れた。