ただ「君」の幸せを願っていた



 のんがいない部屋は、ひどく居心地が悪かった。いつもオレが先に出ていっていたのだと改めて気づく。

 どうせモトのところに行っている。そのうち帰ってくる。
 だけどのんは、どれだけ待っても帰ってこなかった。

「のんいる?」

 こんな状況で落ち着けるはずがなく、そして一人の空間に耐えられず迎えに行った。
 モトは訝るようにオレを見て、

「え? 来てないけど……」
「はっ? なんで?」
「なんでって言われても……」

 ぽかんとしながら顔を見合わせて、たぶん二人同時に同じことを思った。

「……あいつどこ行った?」

 外は暗闇。気温は氷点下。終電はとっくに出ている。
 あいつにはここに友達なんていない。
 のんが、いなくなった。

「いつ出ていった?」

 事情を説明するまでもなく状況を把握したらしいモトは、固まっているオレの肩を緊迫した表情で掴んだ。
 動揺しながらスマホで時間を確認する。

「二時間くらい前、だったと思う」
「だったらぎりぎり終電に間に合うし、地元に帰ったかもしれない。のんちゃんの家族の連絡先知ってる?」
「あ、ああ、あいつの母さんなら……」
「まだ着いてはないと思うけど、帰るつもりなら親に連絡してるかもしれない」
「あ……うん、そうだな。連絡してみる」

 急いでのんの母さんに電話をかけたが、のんから連絡は来ていないということだった。

「札幌にいるかもしれないし、捜そう。俺も手伝うから」

 モトはそう言いながらアウターを羽織り、急いで靴紐を結ぶ。
 すると、はっとして顔を上げた。

「そういえば、兄ちゃんは? 札幌に住んでるって聞いたけど」
「え?」

 モトが何を言っているのかわからなかった。
 あいつは札幌に家族なんていない。
 そもそもあいつには──。

「あいつ、兄ちゃんなんていないけど……」