「あの……さ」
「何?」
「本当に……オレの子じゃなかったのかな」
唐突な質問に、美莉愛はぽかんと口を開けた。しばし考え込んでなんの話か察したらしく、ああ、あれね、と笑った。
「だって、遠距離だったんでしょ?」
「……そうだけど」
「彼女って妊娠何ヶ月だった?」
「それは……わかんない、けど」
「でしょ? ほら、言わないってことはそういうことだよ。逆算したら時期とかわかっちゃうし」
のんが言わなかった?
覚えていない。正直それどころじゃなかった。……オレから訊いていないことだけは確かだ。
美莉愛に言われたとき、めちゃくちゃショックだった。のんが浮気をしたなんて信じたくなかった。だけど、どうしてものんを嫌いにはなれなかった。
のんは遠距離なのをいいことにオレを裏切って、しかも子どもまでつくった。しかもオレが気づいていないと思い込んで、オレに責任を取らせようとした。全部わかっているのに知らないふりをしてやっている。嘘つきなのんを受け入れてやっている。だからのんは、全身全霊でオレに尽くさなきゃいけない。そうじゃなきゃ、オレがあまりにも報われない。
ずっとそう思っていた。
いや──そういうことにしたかっただけではないだろうか?
美莉愛に言われたとき、心のどこかでほっとしていなかったか?
ずっと正しい道を歩んできた自分が重大なミスを犯したと──高校生の彼女を妊娠させたという事実を受け入れたくなくて、父さんと母さんに幻滅されるのが怖くて、美莉愛の憶測にすがりたかったのではないだろうか。
もしも、本当に、オレの子だったのだとしたら。
オレが今までのんにしてきたことは──。
「それでね──」
美莉愛の話は、もう頭に入らなかった。