さっきはとっさに喧嘩と言ってしまったが、喧嘩ではない。二週間前にのんが無断外泊をした日のことが引っかかっていた。なんで連絡をよこさなかったのか、どこにいたのかと問い詰めても、のんはぼんやりしたまま『ごめん』と繰り返すだけだった。

 それはあの日だけじゃなく、最後に喧嘩をした一ヶ月前からずっとそんな感じだ。あれだけ生意気だったのんは一切言い返してこなくなった。オレが怒っても、ぼんやりしながらひたすら謝り続ける。

 いつもはそういう態度もむかつくのに、前ほどきつく当たれなくなった。一ヶ月前にした喧嘩が、オレの中でずっともやもやと残っていた。

 ──ほんとにオレの子だったの?

 言わないつもりだった。否定されてしまえば、自分が壊れてしまいそうだった。
 あのときの子どもはオレの子じゃない。オレが知っていることをのんは知らない。のんの口から真実を──オレを裏切っていたという事実を直接聞くのが怖くて、言わなかった。

 だけど、心の傷はなかなか癒えてくれなかった。何度も、何度でも、他の男に抱かれているのんを想像してしまう。だからオレの傷が癒えるまで、オレに抱かれているのんの姿で頭がいっぱいになるまで、何度も、何度でも、のんを抱きたかった。

 なのにのんは、すぐに痛いと言う。他の男にはヤらせたくせに、オレのことは拒絶する。あの日だって、まるで汚いものでも見るかのような目をしていた。

 ──ねえ、それ、本気で言ってるの?

 オレの子じゃない。そんなはずがない。
 だってそうだろ。確かに避妊具はつけてなかったけど、ちゃんと気をつけていた。失敗なんかするはずない。実際、あれから一度も妊娠していない。
 それに……。

 ──ほんとに慶の子かなあ?

 のんが流産したあと、たった一人にだけ──美莉愛に話したとき、そう言われたからだ。
 だけど、本当に?