薬局まで走り、思いつく限りの買い物を済ませて足早に帰る。ベッドで熱にうなされているのんちゃんにゼリーを食べさせて薬を飲ませ、冷えピタを貼って寝かせた。
なぜ彼女でもない女の子というか人の彼女の看病を、という疑問は、今はあえて考えないようにした。あれを聞いたあとに強制送還させることなど、俺にはできない。
俺のベッドですやすやと眠っている彼女の前髪を、そっと撫でた。
触れることに、もうためらいがなくなっていた。
二時間ほど経つと、のんちゃんはだいぶ落ち着いてきたようだった。市販の薬も侮れないものである。
ただの風邪だったらしいことに、心の底からほっとした。
「私のことドM女って思ってるでしょ」
薄く目を開けたのんちゃんが唐突に言った。
さっきの面影はどこへやら、若干卑猥な質問に思わず「え」と上ずった声が漏れた。
「なんで急に」
「きつく当たられて幼稚な悪口言われてもへらへら笑ってる。嫌いなパチンコにも懲りずについていく。他にも好きな人がいるのわかってて離れない。しまいには泣かされて、振り回されるのが大好きなドM女」
なるほど。確かにそうだ。
女の子にそんなことを言うほど下劣ではいないが、否定はしないでおいた。
「でも、慶も慶だよね。馬鹿で我儘の私に苛ついてばっかりで、他に好きな人もいるのに、なんで私と付き合ってんだろ」
「それは……好きだからじゃないの」
「え?」
「どんな状況になっても一緒にいるのは、好きだからじゃないの?」
──辛くたって、モトと一緒にいたいんだよ。
かつて元カノに言われた、到底理解できない台詞をあえて口にする。
いや──今はほんの少しだけわかるような気がした。
辛くはないが、決して楽ではない。それでも俺は、のんちゃんを好きなままで、こうしてそばにいる。