慶はまた眉をひそめて私から目を逸らした。怒ったときのお決まりの仕草だ。今日はなんと舌打ちのおまけつき。

「わかったよ。オレがやるからどけ」

 黙ったままよけると、慶は財布と煙草を持って私が座っていた椅子に移動し、憤りを見せつけるみたいに荒々しく煙草に火をつけた。
 なぜ私が怒られるのか。舌打ちをしたいのはこっちの方だ。

 床に置いていたバッグを持って休憩所に向かい、ソファーに腰かける。言わば私の定位置だ。
 座っていたのはここから近い台だったから、慶の姿が見えている。もちろん慶からも私が見える。お互い少しでも首を動かせば目が合う距離なのに、慶は私になんか目もくれず、ただただくるくる回る数字を見つめていた。

 慶がパチンコをするなんて、札幌に来るまで知らなかった。地元で会っていたときも札幌に遊びに来たときも連れていかれたことはない。だから初めて『パチンコ行くぞ』と言われたときはびっくりした。それから私たちのデートスポットはパチンコ屋になった。

 ──のんが大学受かったら一緒に住もうな。それで、いろんなとこ行こう。

 付き合い始めの頃にそう言われた気がするけれど、今となってはどうでもいい。
 一年くらい前、私が高三の秋。あることがきっかけで関係がこじれてしまった私たちは、事あるごとに言い争いをするようになった。そんな私たちが仲良く楽しいデートなんかできっこない。どうせ喧嘩になるのは目に見えている。

 一つだけ謎なのは、あの日から慶の私に対する当たりが強くなったこと。理由は今でもわからなかった。
 それまではわりと優しかったっけ。