カラオケに移動して一時間後、やたらと盛り上がっている部屋を出て喫煙所へ向かう。さすがにもう外は寒いので、室内で吸うことにした。
喫煙所と張り紙があるドアを開けると、
「なんでいんの……?」
まさかの由井とつぐみがいた。
ちなみに喫煙者はつぐみだけで、由井は非喫煙者である。酒豪のつぐみと下戸の由井。お喋りなつぐみと物静かな由井。二人を二年以上見てきたが、なんともアンバランスなカップルだと未だに思う。
「あ、そういえば今日だっけ。女子大生と飲み会」
二人の向かいの椅子に座ると、つぐみが言った。
「なんで知ってんだよ」
「なんでって、聞いたからだけど」
つぐみに指差された由井は、なぜか俺にぺこりと頭を下げた。
なんで由井が知ってるんだ。機密情報じゃなかったのかよ須賀。よくわからないながらも『わかった』と答えたのは、俺自身なんとなく他の奴らに知られたくなかったからなのに。
「のんちゃんって今日のこと知ってるの?」
ドキッとしつつ、目を合わさずにニコチンを吸引する。
「なんで言う必要あるの?」
「……ふーん」
意味深な感じで言うのやめろ。
やはり、なんだかんだ言ってつぐみも女である。なぜ女という生き物は妙に勘が鋭いのか。この反応から察するに、俺がのんちゃんを好きになってしまったことなどとうに見抜かれていたのだろう。
つぐみは短くなった煙草を水が張ってある灰皿に落とした。すかさず由井が立ち上がり、つぐみに向けて手を差し出す。つぐみは由井の手をとり、「ありがと」と柔らかく微笑んだ。
一見アンバランスなカップルではあるが、たまにこういうシーンを見ると、案外お似合いなんだよなと思うのだった。のんちゃんと慶が噛み合っていないことに気づいたのは、この二人を間近で見ていたからかもしれない。
まるで、相思相愛のお手本みたいだ。
ドアノブに手をかけたつぐみは、開ける前に振り向いた。
「前に、のんちゃんはうちらに分厚い壁作ってる気がするって言ったけど、ちょっと訂正する」
「え?」
「モトには心開いてる感じするかな。少なくとも、慶よりは」
「何それ」
「女の勘」
にやりと意味深に微笑んだつぐみに「あっそ」と返し、喫煙所から出ていく二人を見送った。