友達の彼女を好きになってしまった。
俺としたことがなんという大失態だ。よりによって友達の彼女を好きになるなんて、恋愛に向いていないどころの騒ぎじゃない。ありえない。夢なのだとしたら、ぶん殴ってでもいいから誰か起こしてくれ。
などとつい取り乱してしまったが、俺は俺だ。
綺麗事をぬかすつもりはないが、慶からのんちゃんを奪う気などさらさらない。気持ちを伝える気もないし、忘れるためだとヤケになって、つい先日告白してきた後輩と付き合ったりもしない。
ただ──。
ただ……なんだろう。
「モトって札幌残る組だったよな?」
冬休みを目前に控えて気が抜けていた講義中、後ろに座っている須賀が俺の肩を突いた。
卒業後の話だろう。入学したての頃は地元で就職するつもりだったが、予想以上に札幌が住みやすいのでこのまま残ろうと思うようになった。
「そうだけど」
「じゃあ飲み会来ねえ? バイト先で女子大生と知り合ってさ」
札幌に残ることと飲み会との繋がりがまったくわからない。
「また? 好きだね」
「スカしてんじゃねえぞイケメンが。男はみんな可愛い女の子と出会いたいだろ」
「そんなことはないと思うけど、札幌残るかどうか関係ある?」
「せっかく彼女できても遠距離になったらもったいねえじゃん」
なるほど。こいつも大学で彼女と遠距離になった挙げ句振られたうちの一人だから、遠距離はもうごめんだということだろう。
といっても、俺たちはまだ三年だ。卒業まであと一年以上あるというのに、そこまで先のことを考えられるのはある意味尊敬する。俺はもし今彼女ができても一年後のことまで考えないし、遠距離になったところで仕方がないと思うだけだし、そもそもそこまで続くとも思えない。
「まあ、モトは行かねえか」
「いや」
好きな子がいるから飲み会に行かないと言うほど潔癖ではない。のんちゃんを忘れるために彼女をつくる気もない。
だけどまあ、気晴らしするくらいならいいだろう。
「行こうかな」
「ふぇ?」
最近は息抜きをすることもなく、あまりにも女の子と無縁だったから免疫がなくなっているだけだ。きっとそうだ。
「よっしゃ、人数揃った。おい、これは機密情報だからな。他の奴らには絶対言うなよ」
「あ……そう。わかった」
人は好きになった理由をあれこれ並べたがるが、そんなものは後づけに過ぎない。ただ外見が許容範囲内の相手と親しくなればなんとなく好意を抱く。それから慌てて理由を考えるのだ。
恋愛感情など、ただそれだけのことなのだ。