私が渋っていると、慶は眉をひそめて目を逸らし、私の前にある台にも千円札を入れた。強行突破にも程がある。
 ジャラジャラと小さな玉が出てくると、観念して椅子に座り丸いレバーに手を添えた。

「おい、ちゃんと見てろって! その演出激アツ!」

 見事に引いてしまい、すぐに同じ数字が三つ揃った。陰鬱な気持ちとは裏腹に、何やら派手な演出とおめでたい音楽が大音量で流れる。

「おお、すっげえ! おまえさすがだな!」

 慶はこういうときだけ全力で私を褒める。
 さっさと千円分を終わらせたかったのに、当たったということは続けなければいけない。憂鬱でしかない時間がまだ続くことにうんざりした。ギャンブルなんて何が楽しいのか全然わからないしやりたくない。

 だったらなぜこの場にいるのか。理由は二つ。
 一つ目は、慶はどこへ行くにも私を連れていきたがるから。
 遠距離恋愛だった一年間、長期連休で慶が地元にいるときはなるべく一緒にいた。それは普段会えないからこそだと思っていたけれど、慶にとって『恋人同士が行動を共にする』のは当然のことだったらしい。
 二つ目は──その方が私にとっても都合がいいからだ。

 何度か連続で当たりを引いてしまい、なかなか台から離れられないまま時間が過ぎていく。慶はどんどん上機嫌になって、何度も「すげえ」と笑っていた。
 そのたびに私の苛立ちは募っていく。

「もうやめたい。いいでしょ?」
「その台まだ出るよ」
「じゃあ慶がこの台やればいいじゃん」

 慶はめちゃくちゃ顔に出るタイプだ。やめたいと引かない私にずいぶんご立腹みたいだった。
 だけどそれは私も同じ。控えめに言って、目の前の台をぶち壊したい程度には苛立っている。