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「またドタキャンする気?」
電話口からドスの利いた声が返ってきた。
電話の相手は、付き合ってもうすぐ三年になる彼女だ。
週末に会う約束をしていたが、ついさっき大学時代の友達から連絡を受け、再来週だと思っていた同窓会が来週だったことが発覚したため約束をキャンセルしたいと連絡をしたところだった。
「ごめん。日にち勘違いしてて」
『あたしの方が先約でしょ。同窓会なんか断ってよ』
「先約は同窓会だよ。ずっと前に出席のハガキ出してるから」
電話越しなのに、彼女の苛立ちが伝わってくる。数秒ほど黙り込んだ彼女は、さっきより少し落ち着いた、だけど冷淡な声音で言った。
『……ほんとに同窓会なの?』
「は?」
『最近ドタキャン多くない? ほんとは浮気してるんじゃないの?』
前半は彼女の言う通りだった。だけどそれは、本当に仕事が忙しいからだ。
なのに、とっさに否定できなかった。同窓会が来週だと知ったとき、おれは彼女と会わずに済むことにほっとしていたからだ。同窓会がなかったとしても、他に理由を作ってキャンセルしていたかもしれない。
だけど、後半はこっちの台詞だった。
彼女が言う浮気の定義は知らないし、確証もないが、おそらく彼女には他に男がいる。気づいたとき、なんの感情も湧かなかった。嫉妬も、怒りも、虚しさも、情けなさも、何も。
むしろほっとしている自分さえいた。その男のもとへ行ってくれて構わないのに、と。
自覚せざるを得なかった。おれはまだ、陽芽のことが好きなのだと。
だから、どうしても耐えきれず陽芽に電話をして会ってしまった。──おかげで、おれの中で陽芽の存在はさらに大きくなってしまっていた。
「とにかく、ほんとごめん。今度埋め合わせするから」
『もういい!』
ブツ、と電話が切れた。
彼女はおれがかけ直してくるのを待っている。おれが謝り、同窓会をキャンセルし、彼女との約束を優先する。それが彼女の望みだ。
わかっていたが、おれは画面が黒に戻ったスマホをベッドに投げた。
──ほんとは浮気してるんじゃないの?
「……したくても、できねえんだよ」
陽芽を抱くことは、もう二度と叶わない。