勉強を教えるという口実のもと、おれたちはどんどん距離を縮めた。勉強なんかそっちのけで、たわいのない話ばかりして解散することもあった。

「私、慎さんのこと大好きだよ。彼女になりたい」

 陽芽に告白されたのは知り合って半年後、受験を終えた二月の半ばだった。
 待ちに待った瞬間だったことは否めない。この半年間で気持ちを募らせていたのは、おれも同じだったからだ。
 頷けるものなら頷きたい衝動を堪えながら、

「いやいやいや、さすがに無理でしょ。中学生とは付き合えないよ」

 もっともらしいことを言うと、陽芽は怪訝そうに首をひねった。

「もうすぐ中学生じゃなくなるよ」
「そうだけど、高校生でもちょっと……」
「なんでだめなの?」
「え……と。普通に考えて、かな。下手したら犯罪だからね」

 言うと、陽芽は突然スマホで何かを検索し始めた。
 五分ほど経ってからぱっと顔を上げて、スマホの画面をおれに向けた。

「淫行条例のこと?」

 もう少しオブラートに包んでほしかった。

「ああ、うん、そうそう」
「えーでも、真剣交際ならいいって書いてあるよ」
「そうかもしれないけど……」

 おれの顔を覗き込んで、じっと目を見つめる。陽芽は納得がいかないときによくやるが、おれはこれにとことん弱かった。可愛すぎるのだ。

「私のこと嫌い?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ、好き?」

 単に強引な性格なのか、おれの気持ちに気づいているのか。
 好きじゃないよ、と答えてやるのが一種の優しさだったのかもしれない。
 だけど言えなかった。

「……好きだよ。めちゃくちゃ」

 観念して言うと、陽芽はこれ以上ないくらい嬉しそうに微笑んだ。