万が一慶が早く帰ってきたら面倒だから、出かけてくるとメッセージだけ送った。
 慎ちゃんが麻生駅まで迎えにいくと言ってくれたのを断り、待ち合わせ場所として指定されたところに地下鉄で向かった。

 大通(おおどおり)公園は、西一丁目から西十二丁目まである長い長い公園だ。園内のどこ、とまでは言われていなかったのに、私の足は迷うことなく進んでいく。

 西三丁目の噴水前のベンチに、慎ちゃんは座っていた。
 もう十一月だから通水期間は終わっているし、もちろんライトアップもされていない。
 それでも、絶対ここにいると思っていた。

「お洒落してる」

 私に気づいた慎ちゃんが、顔を上げて言った。
 装飾品を再びつけてメイクと髪型も直した私を見て微笑む。

「誕生日おめでとう」

 今まで何度も言われてきた、誕生日なら当たり前に使うたったの一言が、嘘みたいに嬉しかった。
 誕生日を覚えてくれていたことも、こうして連絡をくれて会いに来てくれたことも、一番に『おめでとう』を言ってくれたことも。
 相手が慎ちゃんというだけで、全部が泣きたくなるくらい嬉しい。

「うん。ありがとう」

 言いながら、慎ちゃんの隣に座った。

「仕事どう?」
「頑張ってるよ。きついけど、それなりに楽しんでる」
「そっか。よかった」
「陽芽は? 新生活どう?」
「ん、まあまあかな」
「そっか」

 慎ちゃんはスーツの上から羽織っていたパーカーを脱いで私の肩にかけた。

「え、いいよ。慎ちゃん寒いでしょ」
「大丈夫だよ。陽芽は薄着すぎる」

 付き合っていたときも、いつもそうやって怒られたっけ。

「ありがとう。寒くなったら言ってね」

 微笑む慎ちゃんを見ながら、やっぱりモト君と似ているなと思った。
 顔や性格は全然違う。だけど背格好と、落ち着いた雰囲気や口調や仕草がよく似ているのだ。

 だからだろうか。それとも、モト君だからだろうか。
 なんとなく、思う。私はいつか、モト君に全てを打ち明けるのだろうな、と。慶も、慎ちゃんすらも知らない全てのことを。