「のんちゃんいらっしゃーい!」

 慶の後ろから顔を出すと、私に気づいた須賀(すが)さんが声を上げた。慶の友達の中で一番のムードメーカーだ。須賀さんに続いてみんなも挨拶をしてくれたから「やっほー」と軽く返した。
 平日の夜はもっぱらパチンコに直行だけれど、週末は大学近辺に住んでいる須賀さんの家に集まることが多い。どうやら溜まり場らしい。決して広いとは言えない八畳1Kの部屋に男の人が総勢十数人、ぎゅうぎゅう詰めに座っている。

「のんちゃん、大学どう?」

 モト君が『のんちゃん』と呼ぶから、自然とみんなもそう呼んでくれるようになった。

「うーん、普通かな」
「いいなー女子大。うちの学部、男ばっかでつまんねえよ」
「椿女子って可愛い子多いんでしょ? 今度飲み会しようよ」

 おお、いいね、と、突然室内がどっと沸く。あはは、と愛想笑いを返しておいた。
 雑談もそこそこに、夕方になるとみんなで須賀さんの家を出た。

 少し歩いて大きな建物の前に着くと、ドアが閉まっているにもかかわらずガチャガチャと音が漏れていた。ドアが開くとそれが大きくなって、騒音と充満した煙草の匂い、そして冷房が効きすぎている空間に少し頭痛がした。

 みんなはそれぞれお目当ての台を探すため散らばっていく。私の前を歩いている慶とモト君も、ずらりと並んでいる台を選別しながら進んでいく。すぐ後ろにいるのに、騒音のせいで何を話しているのか全然聞こえない。

 やがて慶は目星をつけたらしく、二台分空いている椅子に腰かける。隣にモト君が座るのかと思いきや、モト君は歩いていってしまった。
 慶は突っ立っている私に当然のように千円札を差し出した。

「え? 何?」
「何って、言わなくてもわかるだろ。見てるだけじゃ暇だろ?」