──慶から逃げたそうに見えてるよ。

 モト君の言ったことは正解だった。
 もう疲れた。全部やめてしまいたい。ここから逃げ出したい。
 脳内で反芻している『死ね』と慶が帰ってきたあとのことを想像するだけで、そんな衝動に駆られてしまう。

 帰ってきたら、とりあえずご飯は食べに行くだろう。それで私の機嫌が取れたと勘違いして、家に帰れば体を求めてくる。いつもの流れだ。

 慶は勘違いしている。
 セックスが仲直りのきっかけであると信じているのだ。私にとっては苦痛でしかないのに。

 慶は勘違いしている。
 パチンコについていくのは一緒にいたいからじゃない。引き留めるのは寂しいからじゃない。あの人と切るよう食い下がるのは嫉妬じゃない。

 ──慶のこと、ほんとに好きなの?

 モト君はさすがだ。他人に興味なんてないくせに、妙に鋭いところがある。きっと慶なんかよりもよっぽど私のことをわかってくれている。
 もっとも、私自身が彼と似ているモト君に気を許しすぎているのかもしれないけど。

 ──オレのこと好きじゃねえんだろ。

 あんなの本心じゃない。プライドの塊である慶が、彼女が自分を好きじゃない可能性なんか考えない。ただ私に否定してほしくて──いや、当然私が否定すると思って言ったのだろう。
 あのときも私はたしか『なんで?』と返したはず。だからモト君に指摘されたときは正直ぎょっとした。