ドタキャンなんかもう慣れっこだった。ただ、私だって誕生日くらいは楽しく過ごしたい。ただし相手はべつに慶じゃなくてもいい。どうせこうなるなら、地元の友達とでも約束しておけばよかったと思うだけ。
今から三時間かけて地元へ帰るのも億劫だけど、最悪な誕生日になるよりはましだ。友達に連絡して遊んでくれる人を探そう。
「わかった。でも私は──」
そのとき、慶のスマホの画面にメッセージが表示された。
すかさず慶がスマホを手にする瞬間、はっきりと名前が見えた。
「まだあの人と連絡取ってるんだね」
慶は目を泳がせてから私に背中を向ける。
「……悪いかよ」
「ほんとにパチンコ? あの人に会いに行くんじゃないの?」
「おまえなんなの? 喧嘩売ってんのかよ」
慶の言う通り、今の私はあからさまに喧嘩を売っていた。
あの人に会いに行くわけじゃないことはわかっている。私の誕生日だからなんて生易しい理由じゃなく、そのつもりならそもそも私を連れていこうとするはずがないのだ。
「あーもうまじうぜえな。おまえ我儘すぎ。そんなに自分の誕生日が大事かよ」
ああ、まただ。体の中が空っぽになっていく。
力が抜けて、膝からくずおれるようにふらふらと床にへたり込んだ。誕生日なんかどうでもよくなって、今の私にとってもはや重たいだけの装飾品となったピアスもヘアアクセも腕時計も外した。
「わかった。いってらっしゃい」
「なんなんだよ」
「だからもういいってば」
「なにキレてんだよ。あーもうめんどくせえな。死ねよおまえ」
「──は?」
さすがに聞き流せなかった。
どうして私が『死ね』なんて言われなきゃいけないのか。どうして生まれた日に、彼氏に『死ね』なんて言われているのか。
慶はさすがにまずいと思ったのか、慌てて家を出る準備を──いや、正しくはこの場から逃げる準備を始めた。ごめん、なんて聞こえてくるはずもない。
全ての気力を失った私を一瞥すらせずに、「なるべく早く帰ってくるから」と言って出ていった。二度と帰ってくるなと思った。