「……なんで?」
「不意に図星を指されると、言い訳を考える時間稼ぎのために『なんで?』って返しちゃうらしいよ」
「……付き合ってるんだから、好きに決まってるじゃん」
「すげえ棒読みだね」

 ──のんちゃんも慶が思ってるような子じゃないと思うけどね。

 のんちゃんを見ているときにふとよぎる違和感の正体に、俺はなんとなく気づいていたのかもしれない。
 おそらくこの子は、何か嘘をついている。
 その中の一つが慶への感情だ。それは同時に、二人が噛み合っていないように見えることの答えでもあった。

「好きな相手と付き合うって、幸せなことなんじゃないの?」

 俺の勘が鋭いとかいう話ではない。女という生態は謎だらけだ。さっぱりわからない。
 単にこの子は、嘘が下手くそなのだ。

「悪いけど、俺のんちゃん見てて幸せそうだなって思ったことないよ」

 やめておけ。頭の中で警鐘が鳴る。
 のんちゃんと出会ってからの俺は変だ。自分の行動を心底後悔する。

 ──モト君は、優しいよ。

 なぜあの日、置いてけぼりにされた彼女を飲み会に誘ってしまったのだろう。なぜ部屋から出ていったきり戻ってこない彼女を追いかけてしまったのだろう。なぜ家出した彼女を部屋に入れてしまったのだろう。

 これ以上関わってはいけないとわかっていたはずなのに。今まで通りに自分を制御できていれば、ほんの少しでも何かがずれていれば、こんなことにならなかったはずなのに。

「じゃあ、どういう風に見えてるの?」

 のんちゃんの視線が俺に向いた気がした。俺も視線をのんちゃんに向けた。
 確かに目が合っているのに、のんちゃんの目にはべつの何かが映っている。また、そんな感覚が走った。

「慶から逃げたそうに見えてるよ」

 この瞬間、俺は早くも慶に二つ目の秘密ができた。
 友達の彼女を好きになるなんて、どうかしている。