「モト君は慶のことそんなに深く考えてない。ただ〝友達の彼女に手を出して、それがばれたらあとあと面倒だから〟だよね」

 欲求と理性の激しい葛藤の末にたどり着いた結論は、まさに言われた通りだった。
 欲に溺れて今後の生活に支障を来すよりも、今この瞬間の欲を抑えることが俺にとっての優先事項だったのだ。そこに慶への感情は、ない。
 言い訳をしてもまた『らしくない』と言われる気がしたので、素直に降参する。

「そこまでわかってるのに、よく俺のこと優しいなんて言うね」
「だって優しいもん。なんだかんだ私に付き合ってくれるところとか、私が部屋にいるときは煙草吸わないでくれるところとか」
「たまたまだよ」
「ううん。モト君は、優しいよ」

 久しぶりに見たあどけない笑みと定期的に言われる言葉に、いよいよやばいな、と思った。
 無防備に寝転がられているのもきついが、これもこれで相当にきつい。

「そろそろ黙っとかなきゃ今度こそまじで襲うよ」
「じゃあもうやめる。あと、べつに煙草嫌いじゃないし吸ってもいいからね」

 のんちゃんはベッドから降りて床に座った。ただどうにも肩と鎖骨と谷間(意外とあるから本当に困る)と足が気になるので、パーカーのチャックを上げて足に毛布をかぶせた。

 調子に乗ってごめんね、と笑ったこの子は、本気で反省しているのだろうか。
 俺があのまま理性を失っていたら、この子はどうしていたのだろうか。
 あのままキスをして、服を脱がせて、白い肌に顔を埋めて──。

 脳裏に浮かびかけているえげつない妄想を振り払うため、テレビの音量を無駄に上げて残り少ないお茶を一気に飲んだ。
 念のためのんちゃんと二人でいるときは酒を飲まないように心がけていてよかった──と、思ったのに。

「のんちゃんってさ。──慶のこと、ほんとに好きなの?」

 アルコールがなくともとっくにブレーキは錆びていた。お言葉に甘えてニコチンを摂取しても修復は不可能。煙を肺いっぱいに吸い込むほど、逆に錆が広がっていくだけだった。
 俺にだって限界くらいあるのだ。