それからのんちゃんは、慶と喧嘩をするたびに──つまりなかなかの頻度で俺の家に来るようになった。秋が深まる頃には、もはや慶より俺の方がのんちゃんといる時間が長いんじゃないかと思うくらいに。
慶公認というのが何より厄介である。追い返すこともできないのだ。──というのは、やはり言い訳なのだろう。
慶が迎えに来るまでの数時間を、喋ったり喋らなかったりしながら過ごしていた。
のんちゃんが喋れば俺も喋る。のんちゃんが黙れば俺も黙る。その繰り返しだ。のんちゃんとの無言の時間は、不思議と居心地の悪いものではなかった。
同じことを繰り返している中にも、変化が二つだけある。
俺が酒ではなくお茶やコーヒーを飲むようになったこと。
そして、のんちゃんの定位置がソファーではなくベッドになったこと。
まるで人形みたいに、ただベッドに横たわってぼんやりしていることが多かった。
十月も終わりかけているというのに、のんちゃんはキャミソールに太もも丸出しの短パンと相変わらず薄着だ。さすがにパーカーを羽織ってはいるが、チャックを半分くらい下げているのであまり意味がない。
「慶っておかしいよね。私のことモト君に預けて何時間も放置だよ」
俺たちの間に起こりうる過ちの話なら、のんちゃんもせめて露出を控えるくらいしてほしいものである。
「信用してくれてるんでしょ」
「信用とかじゃないよ。慶の頭の中には、彼女と友達が自分を裏切る可能性なんて微塵もないんだよ」
「それは知らないけど、おかしいのはのんちゃんもでしょ」
「え?」
「最近ちょっと無防備すぎない? 俺も一応男なんだけど」
視界の端でのんちゃんが動いたのがわかった。
視線を感じてそちらを見れば、寝返りを打ったらしく体ごと俺に向いていた。
「じゃあ襲う?」
体勢を変えた拍子にパーカーがはだけ、白い鎖骨と細い肩と谷間がこんにちはしていた(お目にかかれて光栄である)。顔を見れば、挑発するように妖しく微笑んでいた。
くりっとした目を細らせていた、あどけない印象ののんちゃんはずいぶん見ていない気がする。まるで別人みたいだ。