漫喫に付き添うという話だったはずなのに、のんちゃんは結局俺の家に来た。
 断じて俺が誘ったわけではない。のんちゃんが言い出したのだ。
 もちろん断固拒否した。折れない彼女に、だったら家に帰れと言った。俺は間違いなくちゃんとそう言ったし、なんなら慶にのんちゃんを迎えに来るよう電話した。

 すると慶は『しばらくモトんちに置いといてほしい』と言ったのだ。成す術をなくした俺は、ぽかんとしながら『わ……わかった』と答えてしまった。
 まじでなんなんだこのカップルは。

 声をかけてしまったことを本格的に後悔し、同時に諦めもついた。俺はもはや迷惑カップル(特に彼女の方)に振り回される宿命なのかもしれないと。

「ねえ、モト君はなんで彼女つくらないの?」

 前回同様、ペットボトルのお茶を片手にソファーで体育座りをしているのんちゃんが言った。

「のんちゃんのお守りしなきゃなんないから、彼女なんかつくる暇ないんだよ」

 ストレートに嫌味を言うと、のんちゃんは「お守りって」と苦く笑った。
 この状況は全部がのんちゃんのせいというわけではないとわかっている。そもそも俺が漫喫なら付き合うなどと言ってしまったのも悪かった。

 とはいえ、まさかのんちゃんが一度ならず二度までも俺の家に行きたいと言い出すとも、慶がそれをあっさり許可するともさすがに思わなかった。
 一度越えてしまった境界線を容易く越えられるのは、俺だけではなかったらしい。

「ごめんね。モト君に甘えすぎだよね」
「ほんとだよ。まあ彼女できたらのんちゃんに構えなくなるから、今のうちにお守りしといてあげる」
「あはは、ありがとうございます。ねえ、モト君はいつから彼女いないの?」
「大学一年の夏くらい」
「そうなんだ。モテそうなのにね」
「それはどうも」
「女の子と飲み会とかしないの?」
「たまに誘われるけど行かないよ。べつに彼女ほしいと思わないし、ていうかできないし」

 面倒だしたまに息抜きはしてたし、と正直な理由までは言わないでおく。

「そっか。でも、モト君には幸せになってほしいな。彼女できちゃったら……ちょっと寂しいけど」

 思わせ振りな発言にちっともドキリとしなかった。
 のんちゃんはなんの意図もなく、ただ思ったことを言っただけだとわかっていた。