パチンコ屋を出ると、慶とのんちゃんは(正しくは慶だが)俺の家に来ると言った。急に女の子を上げられるほど清潔な暮らしはしていないので、玄関先で五分ほど待ってもらい、その間に散乱している服などを早急にクローゼットに詰め込む。
 俺としてはそこそこ綺麗にしたつもりだったのに、のんちゃんが「男の家って感じだね」と引きつった笑みを見せたことは密かに根に持つことにする。

「のんちゃんって大学受かったの?」

 帰りにコンビニで買った酒を冷蔵庫に入れながら問うと、のんちゃんはペットボトルのお茶に口をつけながら「うん」と頷いた。酒は飲まないらしいので(まだ十八歳だから当たり前でしょ、と言われた)昨日から冷やしていた缶ビールを二本取り出し、一本を慶に渡す。

「どこ?」
「女子大だよ」
椿(つばき)女子か」
「え、なんでわかったの?」
「なんでって。四年制の女子大は道内に一つしかないでしょ」
「え、そうなの?」

 なんで知らないの?と胸中で突っ込みつつ、

「じゃあ近いね。朝一緒に行ったりするの?」

 椿女子と俺たちが通っている北大(ほくだい)こと北海央(ほっかいおう)大学は、地下鉄で一駅、徒歩でも十分程度と目と鼻の先だ。同棲するくらいだから当然通学も共にするのだろうと思ったのに、のんちゃんは「へ?」とまたとぼけた顔をした。

「ほんとは北大受けるつもりだったけど、馬鹿だから無理だったんだよな」

 口に含んだビールを噴き出すところだった。
 北大は北海道では偏差値が一番高いと言われている国立大だが、もちろん学部によって差はあるし、椿女子も決して低くはないはず。

 パチンコ屋で初めて見たときのふてくされた顔が思い出され、背筋が冷えた。喧嘩が始まりやしないかとひやひやしながら横目でのんちゃんを見ると、長いまつげを伏せたまま笑んでいた。ひとまず胸を撫でおろして、冷たいビールを喉に流し込む。

「家はもう決まってるの?」
「オレら一緒に住むから」
「えっ? 同棲ってこと? え、親はいいって?」
「うん。慶とのことは何も言われないから」

 けろっと言うのんちゃんに、「そ……そうなんだ」としか返せなかった。
 男きょうだいしかいない俺は、女の子がいる家がどんなものなのかよくわからない。それなりに厳しそうなイメージを持っていたが、高校卒業したてでありながら彼氏との同棲を許可するくらいならそうでもないのだろう。

 あるいは、慶がそれほど信用されているということなのかもしれない。
 確かにな、と思う。清潔な外見に加え、たまに家族の話を聞く限り育ちもよさそうだし、さらに道内トップの大学に通っているのだ。大切な娘の交際相手としては申し分ないだろう。

「どうせ毎日会うんだし、一緒に住んだ方が楽だろ」
「それは……ごちそうさま」

 聞けばすでにのんちゃんの荷物も運び終えていて、このまま慶の家に住むとのことだった。単なるだら飲みからのんちゃんの大学合格祝いに切り替え、俺の部屋には朝方まで笑い声が響いていた。

 慶に彼女ができたと報告を受けてから今日までの一年間で、二人に何が起きたかなど知る由もなかった俺は、ただ純粋にこのひとときを楽しんでいた。