「のんちゃん?」
つぐみの深酒が本格的に進む前になんとか脱出し、近所のコンビニで買い物を済ませた俺は、見慣れた後ろ姿につい声をかけてしまった。
すると肩を跳ねさせてから振り返ったのんちゃんは『やば』という顔をした。俺も『やば』と思っている。
深夜に露出度の高い部屋着姿で外をうろつく。この光景は完全に覚えがあった。つまり今回も面倒事であることは間違いない。
とはいえ声をかけてしまった以上さすがにスルーはできないので、素直に会話を続ける。
「どっか行くの?」
「あ、うん、ちょっと、なんとなく、散歩してただけ」
やや狼狽している姿を見れば、なんとなく散歩していただけではないことなど一目瞭然だった。
ふう、と息をつく。
「また喧嘩したの? で、仲良く家出?」
「あー……はは。うん、そうそう。二回連続で家出見つかるとかさすがに恥ずかしいから、今日はほっといてくれて大丈夫」
スマホで時刻を確認する。〈02:11〉という数字を見て、この時間帯でも営業している場所を脳内でいくつかピックアップした。
「漫喫くらいなら付き合うけど」
「へ?」
「帰りなって言ってもどうせ帰らないんでしょ? 落ち着くまで付き合うよ」
「え……なんで漫喫?」
「のんちゃん酒飲まないから居酒屋はないでしょ。ファミレスで楽しくお喋りする気分でもなさそうだし、カラオケは俺が気分じゃないし、漫喫くらいならまあありかなって」
「え……でも」
「こんな時間に一人でほっつき歩いてる女の子平気で見過ごせるほど冷酷じゃないんだよ俺は」
さっき声をかけた時点で、いや、二ヶ月前に家に入れた時点で手遅れだったのだろう。
一度越えてしまった境界線を再び越えるのは容易いことで、必要以上に人と──のんちゃんと関わることへの躊躇が以前よりも薄れてしまっていることを自覚した。
ただし、前回のように家に上げるわけじゃない。慶にだって事前に連絡する。ただ漫画を読むだけ。なんなら部屋だって別々に取ればいい。俺は単なる付き添い、あるいはボディガードだ。
「ありがとう。モト君は、やっぱり優しいね」
それが自分に対する言い訳だということを、俺はきっと薄々わかっていた。