日頃から女の子には暴言を吐かないよう心がけている俺も、つぐみに対してはつい口が悪くなってしまう。だけど完全につぐみのせいなので、もうこいつは男友達だと割り切ることにした。

「この間からなんなんだよおまえ。普通、仲間内の三角関係なんか見たくねえだろ」
「べつにー。面白ければなんでもあり。それにわたしと慶って友達ではないし、ていうかわたし慶に嫌われてるし、何がどうなろうと正直どうでもいい」

 けろっと言うつぐみにドキッとした。気づいていたのか。
 嫌ってはいないと思うが、慶はつぐみが苦手なのだ。大勢で集まるときにつぐみが来るだけでも少し嫌そうにするし、今日みたいに少人数で飲むときは絶対に来ない。

「嫌っては……ないんじゃない?」
「少なくとも好かれてはないでしょ。そもそも慶って女に対して夢見すぎっていうか潔癖っていうか、箱入りのお坊ちゃまタイプじゃん。わたしみたいなのは受けつけないだろうね」
「のんさん、なんかふわーって感じだもんな」

 由井は基本的に無口だが、つぐみといるときに限り普通に喋る。『のんさん』という呼び方と『ふわーって感じ』というアバウトすぎる表現が気になりつつ、「まあな」と返した。

 ちなみに例の彼女は見るからにお嬢様タイプだった。『ふわーって感じ』にも当てはまるといえば当てはまる。
 つまるところ、慶の好みはつぐみと正反対なのである。

「でも、のんちゃんも慶が思ってるような子じゃないと思うけどね。勘だけど」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味」

 よくわからないが、わからなくもない。そんな矛盾した感想を抱いた。