「お風呂入っちゃっていい?」
「いいよ」

 お風呂場に向かおうとしたときスマホが鳴った。慶からだ。

〈いつ帰ってくんの?〉

 慶とは、花火大会の翌日に喧嘩をしてから話していない。
 謎の同時家出のあと、私は朝方に帰ってさっさとソファーで寝た。しばらくして起きると、いつの間にか帰ってきていた慶が布団で寝ていて、そのまま会話をすることなく慶は一人で帰省し、今に至る。

〈さっき帰ってきた〉
〈明日とか会う?〉

 会える?と送ってこないところが慶だと思った。恐るべきプライドの塊。

〈明日はちょっと忙しい〉

 今度は電話が来た。着信音がいつもよりけたたましく感じ、声を聞くまでもなくご立腹なのがわかった。

『何が忙しいの?』

 もしもし、すら待たずに慶が言った。

「友達と遊ぶ約束してるから」

 本当だった。せっかく帰省しているのだから友達に会いたい。札幌に友達はいないから──つくらないようにしている、と言った方が正しいけれど──正直けっこう寂しい。
 だからなんだかんだ私のことを構ってくれるモト君の存在はありがたかった。モト君がいなければ、私はもうとっくに限界を迎えていたかもしれないと思うくらいに。

『他の日は?』
「他の子たちとも約束してるからわからない」
『なんだよそれ。ほんと自分のことしか考えてねえな』

 否定はしないけれど、自分のことしか考えていないのは慶だって同じだ。ただ私が慶以外の誰かを優先するのが気に入らないだけのくせに。

『つーか、なんで盆だけなんだよ。夏休み終わるまでこっちいれねえの?』
「無理だよ。忙しいんだってば」
『まじでなんなんだよおまえ。そもそも、毎日朝から晩まで講義詰め込まなきゃ単位取れねえの? そのうえ夏休み返上って、どんだけ要領悪いんだよ』

 慶の怒りのツボは浅すぎて理解できない。