怯えるあまり会話の順序を間違えてしまった。おそらくナンパだと思われている。
「あの、俺、慶の友達で」
「ああ」
俺のことを慶から聞いていたのか、途端に彼女の表情が少し和らいだ。おそらく警戒心も解いてくれたように思う。体をずらしてソファーの右側を空けてくれたので、そこに腰かける。
慶が言っていた通り、確かに可愛い子だった。シンプルに顔面偏差値が高いというより、末広二重のくりっとした目は小動物めいた愛嬌がある。
「初めてです。てか、ギャンブルとか嫌いで」
さっきの質問の答えだろう。
自分から訊いておいてなんだが、高校卒業したての女の子がギャンブル狂だったとしたらそれはそれで大問題である。
「なんかごめんね、誘っちゃって。彼女も一緒だと思わなくて」
「いや、えと、ごめんなさい」
「なんでのんちゃんが謝るの」
「さっき睨んじゃ……え? なんで名前知ってるんですか?」
「慶に聞いてたからだよ」
「あ、そっか」
きゅっと結んでいた口許が緩み、つい二分前まで殺気を放っていた人物とは思えないほど雰囲気が柔らかくなった。つられて俺の頬も緩んだ。
やや吊り気味の目は笑うと鋭角三角形になり、大きな黒目がより強調された。なるほど、これは男ウケするだろう。
「名前なんていうんですか? 慶からは友達としか聞いてなくて」
「元弘。モトでいいよ。敬語もいらないから、普通にして。よろしくね、のんちゃん」
「モト……君。うん、よろしくね」
微笑みながら俺の名前を呼んだ彼女──のんちゃんを、素直に可愛いと思った。