テレビを消した室内は、数分前とは打って変わってしんと静まり返っていた。

 二人がけのローソファーで体育座りをしているのんちゃんは、ぼんやりと(くう)を見つめていた。その表情は、人形の方がまだ感情がこもっていそうなくらいに無気力で、無機質で、そして今にも壊れそうなほどにひどく弱々しく見えた。
 こんな彼女を見るのは初めてだった。

「飲む?」

 冷蔵庫に常備してあるビールを差し出した。が、のんちゃんは「だからまだ十八歳なんだけど」と笑う。

「大学生になったらみんな飲んでるでしょ」
「めんどくさいよねえ。十八歳から成人だとか言っといて、お酒と煙草はまだだめなんだよ。しかもR-18の映画だって高校卒業するまで観れなかったしさ、車の免許取っても卒業するまで運転禁止。なんかいろいろと中途半端だよね」

 話が噛み合っているのか噛み合っていないのかよくわからないが、とりあえず酒は飲まないらしい。
 のんちゃんに向けて伸ばしていた腕を曲げて、再び冷蔵庫を開ける。ビールの代わりにお茶を取り出して渡すと、のんちゃんは素直に「ありがと」と微笑んだ。正しくは、微笑んだつもりなのだろうと思った。

「モト君、まだこっちにいたんだね」
「俺は地元近いから、いつも気が向いたときに帰るくらいだよ。のんちゃんと慶は?」
「慶は明日帰るみたい」
「のんちゃんも一緒に帰るんでしょ?」
「帰らないよ。お盆くらいは帰るつもりだけど」

 そうなんだ、と返して、床に腰を下ろす。テーブルにビールを置いて、なんとなく手持無沙汰になったのでパソコンを開いた。

「もしかして宿題してたの? 私すごい邪魔してる?」
「宿題って」高校生気分が抜けていないのだろう。「レポートだよ。さっきまでゲームしてたくらい暇だったから、べつに邪魔ではないよ」

 邪魔ではない。が、はっきり言って迷惑ではある。俺の言い回しに気づいたのか、のんちゃんは「ごめんね、落ち着いたら帰るから」と呟いた。
 俺が答えるよりも先に、インターホンのチャイムが鳴った。