時刻は一時を過ぎていた。パチンコ屋はとっくに閉店している。他に行く宛もないオレは適当に車を走らせた。喉が渇いていることと煙草を忘れたことに気づき、調達するため通りかかったコンビニの駐車場に車を停めた。
車から降りる前にスマホを見ると、画面に〈不在着信一件〉と表示されていた。のんといるときは常にマナーモードにしているから、解除するのを忘れていて気づかなかった。
のんだろうと思いながらタップすると〈美莉愛〉と表示された。
名前を見ただけで、心臓がぎゅっと縮むような心地になった。
『──もしもし、慶?』
すぐさまかけ直すと、たった二コールで出た美莉愛の声は昨日から変わりなく沈んでいた。
『今大丈夫だった? 彼女と一緒?』
「一人だよ。どうした?」
『昨日はありがとう。急に連絡したりしてごめんね』
「いいよ。美莉愛が辛いときは絶対一人にさせないって約束したろ」
『うん。実は、慶ならそう言ってくれると思ってた』
二歳年上の美莉愛と出会ったのは、高校三年の初夏だった。
実家を出たくなかったオレは地元周辺の大学に進学する予定だったが、友達に誘われて札幌の私立大学のオープンキャンパスに行った。
初めて美莉愛を見かけたとき、目を奪われた。いや、目どころか五感の全てが美莉愛だけを捉えたような、あるいは美莉愛以外を拒絶したような、初めての感覚に溺れた。
──高校生? ここ受験するの?
思考回路が完全に停止していて、美莉愛がオレの目の前まで来ていたことも話しかけてくれたことも、理解するのに時間がかかった。
それから何を話したのか、どんな流れで連絡先を交換したのかまったく覚えていない。とにかく頭が真っ白だった。
美莉愛との出会いは、美莉愛という存在は、それくらい強烈だった。