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 あれから一年弱、春休み終盤。
 すっかり体内時計が狂っている俺は昼過ぎに起きて、ぼうっと天井を見上げながら今日は何をしようか考える。
 俺の地元は電車で一時間ほどの距離なので、長期連休でも気が向いたときに行き来する程度だ。先週までは地元にいたが、一人の時間が恋しくなり早めに戻ってきていた。

 とはいえ一週間も話し相手すらいないのはさすがに退屈すぎた。大学の友達はほとんどが地方出身だからみんな帰省しているし、札幌に戻ってきたという連絡はまだない。
 由井は札幌にいると思うが、半同棲中の彼女と一緒だろう。呼び出すのは気が引ける。

「パチンコでも行くか」

 呟いて、寝てばかりで鈍りきっている体を起こした。
 俺がパチンコを嗜むようになったのは慶の影響だった。慶は清潔感が溢れている外見から想像できないほどギャンブル好きで、ほぼ毎日パチンコ屋にいる。

 連絡してみると、慶も昨日戻ってきたばかりとのことだった。いつものパチンコ屋で合流する約束をし、財布とスマホと煙草をデニムのポケットに収納して家を出た。

 慶が姿を見せたのは、俺が打ち始めて一時間ほど経った頃だった。

「遅かったね」
「もうやめんの?」
「けっこうハマったから一旦休憩」
「そっか。じゃあ悪いけどあいつ頼んでいい? パチンコなんかできねえってうるせえんだよ」

 慶が親指を立てて後ろを差した。目で追うと、ソファーと漫画が置いてある簡易的な休憩所めいたところに、小柄な女の子が所在なげに座っていた。
 俺の見間違いでなければ、思いきりふてくされた顔で。

「あ、もしかして」
「のん」

〝のん〟に会えるのは四月だろうと思っていたから、予想よりも一週間ほど早い初対面に心の準備ができていなかった。それに人見知りをする方ではないが、ものすごく機嫌が悪そうな初対面の相手とどう接しろというのか。

 慶は俺が承諾したと判断したのか、「俺もすぐ行くから」と言い残してスロットのコーナーへ向かった。ちょうど玉がなくなったので渋々立ち上がり、もはや殺気を放っている〝のん〟に恐る恐る近づいていく。

「パチンコ初めて?」

 彼女が顔を上げた拍子に、下の方だけ緩く巻かれている鎖骨くらいの髪がふわりと揺れた。
 次いで、突然声をかけてきた不審者に警戒心を剥き出しにした。