煙を灰いっぱいに吸い込んでもごまかすことのできない最悪な気分。止まらないため息と共に煙を吐き出すと、オレが苛立っていることに気づいたのんはやっと布団から上半身を起こした。

「……なんで怒ってるの?」
「そんなこともわかんねえの?」

 なんでわからないんだろう。何度も何度も同じことを言っているのに。
 なんで毎回理由を言ってやらなきゃいけないんだろう。
 こいつは馬鹿だ。

「おまえまじで何考えてんの?」

 のんが黙り込んだまま俯いた。

「こんな時間までだらだら寝てる女がいるかよ。オレ、前にも言ったよな? 朝飯作ったり掃除したり、それくらいしてもいいんじゃねえのって」
「慶だって寝てたじゃん」

 何もしないくせに、こうしていっちょ前に言い返してくるところもイライラする。

「おまえがさっさと起きてオレのこと起こせばよかったろ。あーもう、せっかくの夏休みなのに一日無駄にした」
「何その言い方」
「それにおまえさ。オレがいない間に勝手に飲み会行ったりして、まじで何考えてんの?」

 用事が終わってモトからのメッセージに気づいたとき、思わずスマホをぶん投げそうになった。普通にありえない。

「モト君がおいでって言ってくれたんだよ」
「モトのせいにしてんじゃねえよ。馬鹿かおまえ。つーかモトに迷惑かけんな」
「慶も誘うから一緒に行こうって、せっかく浴衣着たのにもったいないでしょって言ってくれたの。それに甘えるのがそんなに悪いの? ていうか、モト君に迷惑かけてるのは慶だって同じでしょ? いつも私のこと連れ回すわりに放置して、モト君に任せっきりのくせに」
「おまえがオレの言うこと聞かないで我儘ばっか言うからだろ! つーか話逸らしてんじゃねえよ。オレは昨日の話をしてんだよ!」

 最後の一口を大きく吸って、何度目かのため息と共に深く吐いた。
 火種を灰皿に押しつけると、煙がふっと消えていく。

「わかった。昨日の話ね。だったら訊くけど、誰と会ってたの?」

 突き刺すような口調と射抜くような目つきにドキッとした。
 慌てて目を逸らし、平静を保ちながら言い返す。