花火大会の翌日。
夕方に目が覚めると、同棲中の彼女であるのんも隣で眠りこけていた。
うんざりして、ため息が漏れた。
休日はいつもこうだ。のんはオレと一緒に昼まで寝ていて、朝飯を作ってくれたことすら一度もない。作ってほしいと言っていなかったオレも悪かったと思うけど、一度言ったのに結局変わらない。こんなだらしない女がいるのかって、何度むかついて何度ため息をついたかわからない。
苛立ちを少しでも和らげるため、煙草に火をつけた。
大学生になって一人暮らしを始めたとき、めちゃくちゃ寂しかった。とにかく家にいるのが嫌で、どうにか寂しさをごまかしたくて、一生無縁だと思っていた煙草とギャンブルに手を出した。友達ができてからは誘われるがままに遊び呆けた。
友達はみんな『うるさい親もいないし好き放題やれていいじゃん』とか言ってたけど、オレはべつに縛られたことがないから、ただただ誰もいない空間にどうしようもない孤独を感じるだけだった。
──慶、朝よ。体調でも悪いの?
たまに疲れていて寝坊してしまったとき、母さんはいつもそう言って起こしてくれた。
──慶、最近疲れてるみたいだね。無理しないでね。
寝坊したオレを一切叱ることなく、微笑んでくれた。
リビングに行けば朝から手の込んだ食事がテーブルに並び、母さんが熱々のコーヒーを淹れてくれる。どんなに疲れていても、そのひとときのおかげで今日も頑張ろうと思えた。
「おい、起きろって。いつまで寝てんだよ」
肩を揺すると、のんは「んー」と寝ぼけた声を出して薄く目を開いた。
「今何時?」
「もう夕方の四時だよ」
まじか、と大して驚いたり慌てたりする素振りもなく手でまぶたをこする。呑気な姿にまた苛立ちが募っていく。
ずっと一人で寂しかった。──あいつとだって頻繁には会えない。
だから、のんが札幌に来ると決まったときは嬉しかった。あの平穏で幸せな生活を、今度はのんとできる。そう思っていたのに、のんは信じられないほどだらしないしオレの思い通りにならなかった。