カラオケには二十人以上が集合し、途中参加の連中は花火大会に行けなかった(浴衣女子を堪能できなかった)悔しさを発散するべく大盛り上がりだった。
俺たちがカラオケに入って間もなく来た慶は、のんちゃんの隣ではなく、画面の前に群がって騒いでいる奴らに混ざった。のんちゃんを避けているのは明らかで、心臓のざわつきがさらに増す。
ひたすらタオルを回す曲がいくつか続いた頃、のんちゃんはふらりと部屋を出ていった。
五分が経っても、十分が経っても、十五分が経っても戻ってこない。慶はのんちゃんの不在を知ってか知らずか、酒を呷りながら輪に紛れて踊っている。が、無理に慣れないことをしている慶はひどく浮いて見えた。
どうにも落ち着かず、かといって騒ぐ気にもなれず、スマホと煙草を持ってアルコールの匂いと熱気が充満している部屋を出た。
一室だけ喫煙専用室になっているが、なんとなく頭を冷やしたかったので外に出る。すぐ左側にある灰皿と木製の長椅子。そこには、非喫煙者ののんちゃんがぽつんと座っていた。
俺の気配を察知したのか、おもむろに首を動かして「モト君か」と呟いた。
「のんちゃん、大丈夫?」
「え? 何が?」
「男ばっかに囲まれてむさ苦しいでしょ。いや、誘ったの俺だけど」
「大丈夫だよ。もう慣れたし、楽しいし」
とても楽しそうには見えない。
のんちゃんが横にずれてスペースを空けてくれたので、ありがたく座らせてもらう。煙草に火をつけると、紫煙がゆらゆらと薄闇を舞った。
「あのさ。俺……っていうか、たぶんみんなも同じだと思うけど、ずっと慶のこと落ち着いてる奴だと思ってたんだよ」
「え?」
「成績トップだから俺らテストのたびに頼るんだけど、嫌な顔一つ見せずに俺らが理解するまでちゃんと教えてくれるし、付き合いがいいからこういう飲み会とか誘ったら絶対来るけど騒いだりはしないし。けど全然つまんなそうじゃなくて、静かに見守るタイプっていうか。知り合ってからずっとそんなイメージで」