「そっか。来月の花火大会は行くの? 豊平川の」
「行くよ。あいつ浴衣持ってきてるし」
「仲いいねえ」
紛れもなく本心だった。
大学一、二年のとき、高校時代から付き合っていた彼女に振られた友達を何人も見てきた。俺もその中の一人だ。
遠距離になって『他に好きな人ができた』と言われた奴もいれば、新たな環境に酔いしれて彼女のことを疎かにしてしまった奴(俺はここに含まれる)など、状況は様々だ。
そう考えると、一年間の遠距離恋愛を乗り越え、同じ地に進学し、一緒に住むという選択をした二人の行動力は感心に値する。
「あ。あの子すげえ可愛い」
不意に目に飛び込んできた、慶の頭の向こうに立っている彼女の横顔は、思わずそう口に出してしまうほどだった。恋愛に向いていなくともそれなりに好みのタイプはあるし、可愛いとか綺麗だと思うことくらいもちろんある。
先ほど乗り込んできた女子大生たちの輪から少し離れ、手すりに掴まって背筋を伸ばして立つ姿は品の良さが滲み出ている。花柄のワンピースに、緩く巻かれた淡いブラウンの長い髪。見るからにお嬢様だ。
「どこ?」
「あそこ」
指をさすのはあまりにも無礼なので、視線だけで方向を示す。由井は興味がなさそうにぼうっとしているが、慶は俺の視線を追って首を反転させた。
それとほぼ同時に、俺の熱視線に気づいたらしい彼女がこちらを向いて目を大きく開いた。
──あれ?
正面から彼女を見たとき、どこかで見覚えがある気がした。あれだけの美女と接点があればさすがに忘れないはずだし、文字通り〝どこかで見た覚えがある〟程度だ。だけど思い出せない。
怪訝そうな顔をした彼女に、ついガン見してしまった罪悪感から反射的に軽く頭を下げると、彼女はにこりと微笑んだ。
一拍置いて慶が「ああ」とだけ呟き、反転させていた首を戻した。
のんちゃん以外の女の子には興味がないのだろうか。
どこまでも一途な奴だと、また噴き出しそうになった。