「ブロッコリートスだって。慶の野郎、俺らのこと舐めてんな」
ぶつぶつ文句を言いながらも、須賀を筆頭に独身組がめちゃくちゃ嬉しそうに一斉に立ち上がった。
「モトも早く行くぞ」
「俺はいいよ」
「スカしてんじゃねえぞイケメン独身野郎」
「スカしてるわけじゃ──」
いや、違うな。須賀の言う通り、俺はずっとスカしていたのだ。
「イケメンじゃないよ。俺は昔も今も、ただのヘタレ」
なんでも理屈で考えて、理性を保っていたわけじゃない。
俺はただ屁理屈をこねて、面倒なことから逃げていただけだ。
「は? 意味わかんねえよ。さっさと行くぞ」
「行かないって。もう余計なことうだうだ考えてないで結婚することにしたから譲る」
「なんだそれ。やっぱスカしてんじゃ──え? おまえまさか彼女いんの?」
「いるよ」
「ならさっさと言えよバァァァカ!」
「いい気になってんじゃねえぞイケメンが!」
「イケメンなんか絶滅しちまえ!」
いい気になっているわけでもイケメンでもないが、次々と飛んでくる野次にとりあえず笑ってごまかしながら、腕まくりをして前方に向かっていく奴らを見送った。
最後の秘密も墓まで持っていくつもりだったが──たとえたった年に一度でも顔を合わせる機会がある以上、その場に連れていくわけじゃなくとも一生隠し通すことはあまり現実的ではないなと思う。おそらく彼女もそんなことを望んではいないだろう。
それに、そろそろ頃合いかもしれない。
檀上からブロッコリーを空高く放った慶を見て、そう思った。
帰路につきながら、思う。
のんちゃんを好きだった俺。
慶と付き合いながらも、シンという人を好きだったのんちゃん。
彼女がいながらも、のんちゃんを好きだったシンという人。
のんちゃんと付き合いながらも、元カノを忘れられなかった慶。
いろいろとなんだかややこしい話だったが、それぞれの根底にあるものは至ってシンプルだったのかもしれない。
あの頃の俺たちは、ただ大切な〝誰か〟の幸せを願う自分でありたかったのではないだろうか。
なんて言えば、
「おかえり、モト君」
また君に『らしくないよ』と笑われてしまうだろうか?
END