──その頃には、いろいろと大丈夫になってるかなあ。
五年前に俺の後ろでそう呟いたのんちゃんは、翌日あっさりと姿を消した。覚悟をしていたはずなのに、彼女の存在は俺の中で想像以上に大きかったらしく、尋常じゃないくらいの喪失感や虚無感に襲われた(正直ちょっと泣いた)。
突然のんちゃんがいなくなり、しかもまったく連絡がつかないことにひどく落ち込んでいた慶を見て心が痛まなかったと言えば嘘になる。それでも隠し続けてきたのは、彼女の告白はとても俺の口から漏らすことができない内容だったからだ。
あと、俺自身が慶に秘密を持っていたからだろう。
いつからかのんちゃんを女として見るようになってしまったこと。
まんまとのんちゃんを好きになってしまったこと。
そして、のんちゃんから全て聞いていたこと。
それがあの日まで俺が持っていた、三つの秘密。
四つ目の秘密ができたのは、のんちゃんが俺たちの前から姿を消した一年後だった。
大学を卒業して新生活の準備をしていた頃、二度と会えないと思っていたのんちゃんは『やっほー』とかなんとか言いながらひょっこり俺の家に現れたのだ。
『一年くらい余裕で好きだと思うって言ってくれたけど、調子どう? もう彼女できちゃった?』
『……なんで』
ただただ呆然としながら呟いた俺に、のんちゃんは目を鋭角三角形にして言った。
『モト君ってほんと、意外と鈍感だよね』
わけのわからないことを言いながら小首を傾げる彼女の腕を引いて部屋に連れ込んだ。
その日、俺は彼女をめちゃくちゃに抱いた。
以上の四つの秘密は、何があろうと墓まで持っていく。