年に一度の同窓会の場では、もちろん慶もいたので誰ものんちゃんの話は一切しなかった。とはいえ、急に消息不明になったのだから気になってしまうのは当然だろう。俺だって何も知らなければこの話題に乗っていたかもしれない。

「のんさん? なんで?」
「のんちゃんがいなくなってから慶やばかったよなって話しててさ」
「それ慶の結婚式でする話じゃなくない」

 まともな奴がいてほっとする。
 由井は運ばれてきたシャンパンに手をつけず、オレンジジュースを注文した。

「思い出話くらいべつにいいだろ。懐かしいよなあ。今何してんだろうな」
「懐かしくはないけど。こないだ会ったし」
「え?」

 つい大げさに反応してしまい、全員の視線が俺に集中した。

「どうした?」
「いや……聞いてなかったなと思って」
「のんさんに会ってからモトに会ってなかったから」

 最後に由井と会ってから一ヶ月も経っていない。

「そんな最近? いつ?」
「おまえもなんだかんだ気になってたんじゃん」

 須賀の的確な突っ込みに苦笑いを返す。
 否定はしない。なんだかんだどころではなく、悪いがのんちゃんのことを誰よりも気にしているのは俺だ。

「ほんと最近。一週間も経ってない」
「どこで会った?」
「病院」
「は? 病院って?」
「え、北区の……」
「いやそうじゃなくて」

 外見がどれだけ変わっても中身が変わっていないところが由井らしく微笑ましいが、今はまどろこしくてすさまじく面倒だ。

「なんの病院?」
「産婦人科」
「……は?」
「つぐみが二人目妊娠中だから、定期健診一緒に行って」
「それは知ってるからいいよ。のんちゃんはなんで?」
「なんでって、妊娠したからじゃないの。すげえ嬉しそうにしてたし」
「は……?」

 頭が真っ白になった。
 なんだそれ。どういうことだ。

「もういいじゃん。今日は慶の幸せを祝福する日なんだから」

 由井のまともな台詞に、やっとみんな納得して不謹慎なひそひそ話は終了した。
 俺は胸に痛みを覚えながら、そうだよな、と返した。