披露宴会場に移動し、しばしの歓談タイムを置いて慶と嫁さんが入場してきた。
挙式が終わり多少は緊張も和らいだのか、うざ絡みする須賀たちに笑う程度の余裕を取り戻せたようだった。
俺たちのテーブルは挙式と同様、会場の最後列だ。本州では親族が後ろに座るそうだが、北海道ではこの席順が妥当である。
拍手をしながら慶の背中を見送る。エスコートしているのは慶のはずなのに、まるで新婦が慶を支えているように見えた。
「結婚するって連絡来たとき、まさかのんちゃんとより戻したのかと思った」
席に戻ってきた須賀が言った。まだその話を続ける気か。
「さすがにねえだろ。つーかなんだよのんちゃんのんちゃんって。おまえがのんちゃんに未練でもあんのか」
「いや、だってさあ。まじでのんちゃんいなきゃ生きていけねえ感じだったから」
「まあなー。てかのんちゃん可愛かったよな」
「それなあ」
慶よりおまえらの方がのんちゃんに未練たらたらじゃねえか、と胸中で突っ込みつつ、止めるのも面倒なので聞き流しておく。
「おー、久しぶり! おせえよ」
いくつになっても落ち着きのない須賀が、今度は俺の後ろにある入場口に向かって手を上げた。上半身を翻すと、挙式に参列できなかった由井が到着していた。無事に全員の椅子が埋まる。
由井は大学卒業後、札幌の企業に就職し、間もなくしてつぐみと結婚した。俺にとって今でも親交がある数少ない貴重な人材だ。
もっさりしていた髪をばっさり切り、黒縁眼鏡ではなくコンタクトに変えた由井は、学生時代の面影はどこへやら、ずいぶんと爽やかな商社マンに変貌している。俺でさえ未だに街中で会ったらすぐに気づかないほどだ。
由井がかっこよくなったことをつぐみはさぞかし喜んでいるだろうと思いきや『え、前の方がよくなかった?』と言っていた。あの女は本当にわけがわからない。
「悪い。仕事」
「お疲れー。なあ、おまえのんちゃんのこと覚えてる?」
ま、まだ続ける気か……。
俺は正直気が気じゃないので、いい加減やめてほしい。