「じゃあ私も白状するね」
「何?」
「あの日ね、べつにいいかなあって思ったんだよ」
「どの日?」
「モト君が私とヤッちゃおうとした日」
「その言い方やめてもらっていい?」
ふふ、と聞こえた。わざとか。
「百パーセント冗談ってわけでも、からかってたわけでもないんだよ。……なんかね、慶とするたびに、自分が汚れていくような気がして、けっこうきつかったの」
──また慶に犯される。
今の濁し方からして、俺にそう言ったことをのんちゃんは覚えていないのだろう。
それでいい。知られたくないに決まっている。全てを打ち明けてくれたあの日でさえ、のんちゃんはそのことに触れなかったのだ。だから俺は、何も知らないふりをして「そっか」と答えた。
「でも、俺としてたらもっと汚れてたんじゃないの」
「そうかなあ」
「倫理的にはそうなるんじゃない。わかんないけど」
俺はあの日、堪えてよかったと心から思う。
あのまま抱いていたら、のんちゃんと会わない覚悟など到底できなかっただろう。
「らしくないついでに、もう一つ言っとく」
「ん?」
「他に行く場所がないって言ってくれたとき、ほんとはちょっと嬉しかったんだよ。ありがとう。辛いときに俺を頼ってくれて」
のんちゃんからの返事はなかった。
いくらなんでもキャラ崩壊しすぎかとドキドキしていると、後ろからのんちゃんの腕がゆっくりと伸びてきた。そのまま、俺にぎゅっと抱きつく。
「……本当に、らしくないね」
この子は本当に質が悪い。
きっぱりと振らないでくれたからまだダメージは最小限で済んだものの、安易に抱きついたりしないでほしい。
どうせ、いなくなるくせに。
「一年後、か」
この感触は、俺をこの先どれだけ蝕み、どれだけ痛めつけることになるだろう。
きっと何度も何度も、この感触を、のんちゃんの笑顔を思い出してしまうのだ。
「その頃には、いろいろと大丈夫になってるかなあ」
またよくわからないことを呟いたのんちゃんは、予定通り翌日に慶の──俺たちの前から姿を消した。